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電車公演「ラジオになろうとする電車」を開催しました。
鉄道芸術祭vol.8 イベント・プログラム

 2019.1.14(B1事務局 三ヶ尻)

1月14日(月祝)に鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」を開催しました。電車公演とは、走行する貸切電車を舞台にした一回かぎりの特別なプログラムです。今回は3両の電車をラジオブースに見立て、実験的かつ多彩な試みを繰り広げました。

今回の公演は、世界のナベアツこと落語家の桂三度さん、鉄道芸術祭vol.8参加アーティストであり奇才のゲーム作家・飯田和敏さん、そして、ゲーム『巨人のドシン』の音楽を手がけられたミュージシャンの浅野達彦さん、理論物理学者であり大の鉄道愛好家でもある小川哲生さん、「複製」や「コラージュ」といった手法の可能性について、コピー機やスキャナ、カメラなどのツールを用いて実験を繰り広げているアーティスト・ユニット、ザ・コピー・トラベラーズを出演者としてお迎えし、ラジオになろうとする電車が発車しました。

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当日の様子を写真を交え、少しご紹介します。
中之島駅改札外で受付を済まされた皆さんは、特別切符と本日のチャンネル表を手にご乗車いただきます。

鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」当日配布した番組表

会場となる貸切電車は、大阪側から〈落語車両〉〈コピー&レクチャー車両〉〈ライブ&トーク車両〉と名付けられた3車両。参加者は、ひとつの車両に留まり他車両の様子をラジオを聞くように耳でゆっくり聞く楽しみ方や、車両間を自由に移動しパフォーマンスを間近で見る楽しみ方など、各々の味わい方でご乗車いただきました。

発車合図の笛の音が鳴り電車の扉が閉まると、鉄道芸術祭vol.8参加アーティストであるオスカー・ピータースさんによるオープニングの車内アナウンスが流れます。一気に車内は非日常的な雰囲気に。

 

車内アナウンスが終わるとお囃子の音が響き、〈落語車両〉にて高座に上った桂三度さんによる落語がはじまりました。幼少期は京阪沿線にお住まいだった三度さんは、京阪沿線にまつわる思い出話を皮切りに、リズムよく落語の世界へと観客をいざないます。

鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」桂三度さん(落語家)

 

ひと寄席終えると、オスカーさんの声で次の番組と会場となる〈ライブ&トーク車両〉の案内アナウンスが流れます。ゲーム『巨人のドシン』タッグ、飯田和敏さん浅野達彦さんによるライブ&トークです。

流れる車窓からの大阪の風景を眺めながら、浅野さんの奏でる音楽を聞いていると、ドシンが日々つくりあげるバルド島の様子や、人々の暮らしが想起されるようです。トークでは飯田さんも加わり、『巨人のドシン』の制作秘話や当時の話で盛り上がります。

鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」飯田和敏さん×浅野達彦さん

 

お次は〈コピー&レクチャー車両〉にて、小川哲生さんの8分間のミニ講座です。鉄でできた車輪と線路との摩擦関係について理論物理の視点から読み解かれました。小川さんは走る車内での講義ははじめてだと言いつつも、ホワイトボードを駆使し、誰にでもわかりやすい言葉と鉄道愛に溢れる解説を展開されました。

鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」小川哲生さん(理論物理学者)

 

そして同車両内には、発車してから延々と制作するザ・コピー・トラベラーズの姿が。この日は特別にコピー機を車内に持ち込み、作品をライブ制作していただきました。制作された作品は車内広告のように次々と各車両に吊られていきます。

鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」THE COPY TRAVELERS(アーティスト・ユニット)

 

特別電車は樟葉駅で折り返し、再び大阪方面へ走り出します。

再び巨人のドシンタッグのいる〈ライブ&トーク車両〉へ。夕方の時刻に差し掛かった車内では、日が沈みはじめ車内に夕日が差し込みます。ゲーム『巨人のドシン』の日没のテーマ「黄色い巨人」などを演奏いただき、車内は旅行の帰り路のようなセンチメンタルな空気に包まれるようでした。

 

帰路の〈落語車両〉では、桂三度さんが再登場していただきました。電車の揺れにとまどいながらも、すべてを笑いに変えていく三度さんの落語に車内は大いに盛り上がりました。

鉄道芸術祭vol.8 電車公演「ラジオになろうとする電車」桂三度さん(落語家)

そして最後の小川晢夫さんによる理論物理のミニ講座では、電車が停まる仕組みと摩擦についてお話くださいました。

一回限りの電車公演「ラジオになろうとする電車」は、終点のなにわ橋駅に予定時刻どおり無事到着しました。電波と電車に乗った小旅行は様々な試みに目と耳を奪われている間に終演を迎えました。

ご乗車いただいた皆様、誠にありがとうございました。

 

写真:守屋友樹

「ザ・コピー・トラベラーズのオールザッツなエトセトラ」
鉄道芸術祭vol.8 アーティスト・プログラム

 2018.12.22(B1事務局 三ヶ尻)

鉄道芸術祭vol.8「超・都市計画〜そうなろうとするCITY〜」の参加アーティストであるTHE COPY TRAVELERSは、それぞれが美術家として活躍する加納俊輔さん、迫鉄平さん、上田良さんで結成されたユニットです。12月22日に開催した「ザ・コピー・トラベラーズのオールザッツなエトセトラ」では、彼らの活動経緯や制作手法、また本展出展作品についてさまざまな角度からお話ししていただきました。

 

鉄道芸術祭vol.8 アーティスト・プログラム 「ザ・コピー・トラベラーズのオールザッツなエトセトラ」

 

THE COPY TRAVELERSのはじまりは、加納さんと迫さんのアルバイト先にあったコピー機でした。
スタートボタンを押すだけでイメージが瞬時に紙にうつしとられ、どれだけ失敗してもすぐに次の制作に取りかかれるコピー機の面白さに魅了され、夜な夜な実験的に作品制作するようになったそうです。また、2人のアルバイト先に出入りする友人のひとりであった上田さんも参加し、現在のユニットとなりました。

コピー機の上に乗せるものは、スナップ写真、ドローイング、雑誌の切り抜きなど、3人それぞれが持ち寄ったあらゆる素材です。持ち寄ったものは出どころを問わず、切り刻む、何かに貼りつけるなど、どのようになっても構わないというのがルールだそうです。三人三様思うようにコピー機に並べ、どんどん出力していく、出力したものがまた素材のひとつになるなど、終わらないコラージュ作業の連続から作品が制作されていきます。

また展示する際は、机の上に作品を同等に並べ、現場で選び、展示位置を決定していくのが通例だそうです。長時間の話し合いになると疲れてきて展示作業が進まず、また、体力が有り余っていると喧嘩になるなどの経験を積み重ね、自分のアイデアを通すために他の2人が疲れるのを待ってみたり、黙って素材を追加してみたりと、ユニットならではのエピソードも明かされました。

 

鉄道芸術祭vol.8 アーティスト・プログラム 「ザ・コピー・トラベラーズのオールザッツなエトセトラ」

 

展覧会を行う度に、美術業界や写真業界における作法をくずしていくようなチャレンジを行い、新たな視点を模索し続けてきたTHE COPY TRAVELERS。これまで彼らの作品制作は、スタジオやアトリエに篭りその場で完結していたそうです。そして今回、はじめてスタジオを飛び出し作品制作を行ったことが特徴のひとつだと言います。

本展のタイトルが「超・都市計画」と聞き、まず都市を体験することが大事だと感じたそうです。舞台となったのは大阪・中之島。彼らはたびたび中之島に出向いては、風景写真や素材となるものを採集し、それを一旦スタジオに持って帰り、雑誌の切り抜きやドローイングなど他の素材と同等に並べて制作し、できたものを再び中之島に持っていく作業を繰り返し行いました。

 

また、本展の副題である「そうなろうとするCITY」は、3人の発案から付けられたものです。
「CITY」という言葉は、あらゐけいいちさんの漫画〈CITY〉から引用されました。あらゐさんの描く〈CITY〉では、たくさんの登場人物、動物、モノが行き交い、一見関連性がないと思われたことが何かの拍子に繋がる瞬間や、読み手という視点で街を俯瞰していると予期していなかったコトやモノにスポットライトが当たる瞬間などを切り取り、物語る街の様子が、本展のイメージと重なったと言います。
また「そうなろうとする」という言葉には、街自体が主体をもっているイメージと、街を構成している人やモノ、コトなどの全てのものが、それぞれのゴールを目指して動き、勝手に組み上がっていくイメージを込められました。

これに対し迫さんは、コピー機の上でフレキシブルにモノを移動させながら作品をつくっていくTHE COPY TRAVELERSの作品制作と、漫画〈CITY〉で登場人物を固定せずたくさんの人やモノを出入りさせ物語る街の様子、制作のためにたまに訪れる中之島の風景が、時間帯や季節、道行く人の服装などによって異なってみえて感じることを重ねてみていたそうです。そして、フレキシブルに様々なことが行き交い、固定されない状態に"コラージュの未来"をみたと言います。

 

鉄道芸術祭vol.8 アーティスト・プログラム 「ザ・コピー・トラベラーズのオールザッツなエトセトラ」

 

トークの最中、素材を何層も重ねている内に、そもそも誰のものであったのか、何を見ていたのかすらわからなくなってくるというような話が何度もでてきました。都市の風景とは、各々に動く人や動物、モノ、コトが重なり、固有名詞も見えなくなった頃、立ち上がって見えてくるのかもしれないと感じました。

 

DSC05713.JPG

しかし、THE COPY TRAVELERSの描く都市風景は、決して個人やちいさなモノやコトを無慈悲に切り刻んでしまうものではなく、ひとつひとつに対する愛着や尊敬をもって素材を扱っていることが、作品から、そしてトークの端々からもひしひしと感じられました。

展覧会場では、上田さんのドローイングや中之島で撮影した写真を含む、本展をさらに深く読み解く報告書「THE COPY TRAVELERSのそうなろうとするCITY」を販売しています。ぜひお手に取ってみてください。

THE COPY TRAVELERSの皆様、ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」
鉄道芸術祭vol.8 特別プログラム

 2018.12.8(B1事務局 三ヶ尻)

12月8日、9日の2日間、京阪電車「光善寺駅」構内のとある部屋にて、座主を写真家のホンマタカシさんが務める「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」を開催しました。 

「光善寺駅カメラオブスキュラ」とは2015年、写真家のホンマタカシさんが京阪電車「光善寺駅」構内に設置した、実際にカメラの仕組みの中に入り込み、カメラの原理を体感できる空間です。今回、この空間を新たに茶室として設え、ホンマタカシさんが自ら座主となり、各席限定6名のお茶会を催しました。

 

鉄道芸術祭vol.8特別プログラム|ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」【光善寺駅ホーム】

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鉄道芸術祭vol.8 特別プログラム
ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」
2018年12月8日(土)、9日(日)
①11:00-12:10 ②12:50-14:00 ③14:10-15:20
各席:6席
座主:ホンマタカシ(写真家、鉄道芸術祭vol.5プロデュース)

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開催の様子を写真にて、ご紹介します。
光善寺駅改札にて受付を済まされた皆さんは、駅構内のとある部屋まで案内されます。

 

鉄道芸術祭vol.8特別プログラム|ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」鉄道芸術祭vol.8 特別プログラム|ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」 

階段をのぼり、いよいよ茶室へ。

カメラオブスキュラとは、ラテン語で「暗い部屋」を意味するカメラの語源とされる光学装置です。
暗い部屋の片方の面に小さな針穴を開けると外からの光が穴を通り、穴と反対側の壁に像を結ぶ現象が起こります。また原理上、この方法で結ばれた像は上下左右が反転して映ります。

部屋が暗く手元がはっきり見えない中おこなわれた茶会では、茶や菓子の香り、舌触り、走る電車の振動、構内のアナウンスの音、そして内壁にぼんやりと浮かび上がる光善寺駅とその周辺の風景...
ひとつひとつ濃厚に繊細に味わう時間であったように思います。

 

茶会を終え外に出ると、茶会記にて今回の室礼を各々振り返ります。

 

鉄道芸術祭vol.8特別プログラム|ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」 鉄道芸術祭vol.8特別プログラム|ホンマタカシ「光善寺駅カメラオブスキュラ茶会」

 

ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

 

席主:ホンマタカシ
水屋:中山福太朗
設営:dot architects
写真:守屋友樹

夜のゲーム菩薩、鉄道芸術祭会場にライブ降臨
鉄道芸術祭vol.8 アーティスト・プログラム 飯田和敏「夜のゲーム菩薩 in 鉄道芸術祭」

 2018.11.30(B1事務局 大槻、三ヶ尻)

11月30日、企画展・鉄道芸術祭vol.8「超・都市計画〜そうなろうとするCITY〜」のアーティスト・プログラム、飯田和敏「夜のゲーム菩薩 in 鉄道芸術祭」を開催しました。

本展の参加アーティストであるゲーム作家の飯田和敏さんと、飯田さんが所属するクリエイターチーム・ゲーム菩薩グループのメンバーである中村隆之さん(サウンドクリエイター)、納口龍司さん(イラストレーター、デザイナー)をゲストにお迎えし、お話をお聞きしました。  

「夜のゲーム菩薩」とは、ゲーム菩薩グループのメンバーがテレビ電話越しにゲーム業界やゲームについてお喋りする様子を、インターネットを通じてライブ配信する番組です。この日は特別に、鉄道芸術祭の展示会場にメンバーが集結して番組をお送りしました。

 鉄道芸術祭vol.8|飯田和敏「夜のゲーム菩薩 in 鉄道芸術祭」【VRゲーム「水没オシマイ都市」】

〜VRゲーム『水没オシマイ都市』〜

まず話題は、ゲーム菩薩グループが制作した本展出品のVRゲーム『水没オシマイ都市』へ。
本作は、水没した都市空間を泳ぐ体験型の作品です。

プレイする人は、頭にVRのゴーグルをかぶり、両手にコントローラーを持ち、平泳ぎのような動作をすると前へ進む(泳ぐ)ことができます。現実の地図情報からステージを生成する「シマダシステム」を使用しており、実際の都市がゲームの舞台になっています。本展では中之島エリアがスタート地点になっていました。

また、複数人で同時にプレイできる"マルチプレイ"も可能な本作。今回は隣でプレイしている人とゲーム内でアバターとして再会し、ボディランゲージやアイテムを取り合うなどのコミュニケーションを取ることができました。外部からもアクセスができるように設定をすれば、どこにいてもゲームの中で会うことができるのだそうです。いつの日か、ゲームの中で誰かと待ち合わせ...なんてことが起こるかもしれません。

本作に取りかかった時は販売をするつもりで開発を進めていました。しかしVRコンテンツがなかなか一般に普及しないという大きな問題がありました。開発の締め切りがなく、リリースする必然性もない中、展示のためのゲームも存在するのではないかと考えたそうです。そして今後、どんな風にどんな場所でどんな場所を水没させていくのか、様々な場所で展開していきたいと意欲的に話されていました。

 

〜ゲーム菩薩 私たちはなぜゲームから卒業できないのか?〜

飯田さんは、ガンダムや絵画など様々なことに一時期入れ込むことがあっても何かの拍子に卒業したが、ゲーム作家となった今もゲームで遊ぶことからは卒業していないといいます。

鉄道芸術祭vol.8|飯田和敏「夜のゲーム菩薩 in 鉄道芸術祭」【私たちはなぜゲームから卒業できないのか?】

「すべては時が解決する」といいますが、苦しい時間をやり過ごすための最適な手段がゲームであったと、ご自身のゲーム体験を振り返り"救済"の観点で語られました。不幸な出来事が不可抗力によって身に降りかかることがあるのに対し、ゲームの中の内的な世界ではラッキーな偶然を自分の手で掴むことができます。飯田さんはゲームが本質的に心を救済してくれるわけではないと言います。しかし、長い時間日常から離れることができ、そこにはキュアするための一つのシステムがあったと話されました。「ゲーム菩薩」という名も、"救済"に由来しているそうです。  

また、卒業しない理由として挙げられたのは、ビデオゲームやコンピューターゲームの持っている側面のひとつとして、私たちの生活には未だ組み込まれてない新しい技術やシステムを、一足先に"遊び"というレベルで体験ができることも大きいと話されました。

休憩を挟み、来場者からの質疑を交えて話はさらに深くなります。

鉄道芸術祭vol.8|飯田和敏「夜のゲーム菩薩 in 鉄道芸術祭」

〜VRと現実〜

来場者から『水没オシマイ都市』をプレイした時にVRの中と身体がシンクロする感覚がありとても驚いたという声をいただきました。飯田さんは、身体知の有無がシンクロする感覚を引き起こしているのではないかと言います。平泳ぎをした経験がない人は「平泳ぎで泳げば泳げますよ」と伝えても理解ができないが、経験のある人は水の抵抗の感覚などが身体知として残っていて、それがVRの中でも喚起されるということに展示をして気がつかれたそうです。ということは、これまでのゲームにはできないことができる喜びがあったが、VRはできることしかできないという反転が起こっているのではないか、つまりVRと現実は1対1の関係であり現実は拡張されていないのではないかと考えるようになったそうです。

鉄道芸術祭vol.8|飯田和敏「夜のゲーム菩薩 in 鉄道芸術祭」ゲーム菩薩グループのお三人

 

昨今、VRを利用して、アスリートの訓練や医者に手術の体験をさせるなど、現実に繋がる経験を積ませる傾向も世界的にあるそうです。しかしそこにも根底には、身体の基礎能力や身体知に委ねられている部分が強いようです。トークでは、臨死体験や悟りを開くなど身体知のない経験をVRで行い、後に現実の体験として繋がる時に、どのようなコンフリクトが起きるのかなど、今後の展開を妄想しておおいに盛り上がりました。

ゲーム菩薩グループの皆様、そしてご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.8
「都市計画の思想と場所」(中島直人さんをお迎えして)

 2018.11.13(B1事務局 江藤)

鉄道芸術祭vol.8「超・都市計画 そうなろうとするCITY」の第1回目のラボカフェスペシャルは、まずは都市計画について、過去と現在の考え方そして未来のあり方を皆さまと考える場を持ちました。

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ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.8
「都市計画の思想と場所」中島直人(東京大学工学系研究科 准教授)
2018年11月13日(火)19:00-21:00
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ゲストの中島直人さんは、都市の空間ができた意図とそのデザインを研究される一方で、都市の再生や構想のプロジェクトに取り組まれています。これまでの研究は、日本では関東大震災の2年後、1925年に始まった"都市美運動"に関するものと、日本都市計画学会の学会賞"石川賞"の名のもとになっている石川栄耀に関する研究が主なもので、それぞれ著書を刊行されています。石川栄耀は東京の戦災復興の責任者であり、現在の新宿・歌舞伎町をデザインした人物ですが、「『都市計画』と云う華々しい名前を有ちながら自分達の仕事がどうも此の現実の『都市』とドコかで縁が切れてる様な気がしてならない」註1)ということばを残しています。お話をお聞きするにつれ、このことばが、中島さんの都市計画に対する考え方の原点になっているように感じられてきました。

中島さんは、自身の研究を通しての都市計画のあり方について、「もっと多くの市民が共有したり参画できるものがあったのではないか。今でもそれがあるし、大事なのではないかということを考えて研究している」と言います。 現在では私たちも耳にすることのあるアーバニズムという都市計画の思想の変遷を辿りながら、中島さんの考え方に近づいていきました。

鉄道芸術祭vol.8関連トークプログラム|「都市計画の思想と場所」 中島直人さんをお迎えして(2018/11/13)

アーバニズムの潮流

20世紀に入って都市の集中化が進むにつれ、都市においてかつて強かったコミュニティが解体される様子に問題意識を持つ人が増えてきました。そこで、社会学の分野で"アーバニズム"ということばが生まれ、アメリカのシカゴで研究が始まりました。これまで都市を考える学問は細分化され専門家の仕事でありましたが、これを包括的に、あるいは別の視点を入れて考える必要性が出てきたということです。

1990年代には自動車中心社会やそれによる都市の姿の弊害からさらに関心が高まり、サステナブルな未来を志向して都市を考える"ニュー・アーバニズム"という思想が興ってきます。ここで大事な点は、アーバニズムの思想には、都市に暮らしている人々の"実態の概念"と、社会をより良いものに変えていこうとする"規範的概念"の二つの要素が組み合わさっていることだと中島さんは言います。

鉄道芸術祭vol.8関連トークプログラム|「都市計画の思想と場所」 中島直人さんをお迎えして(2018/11/13)

2000年代には、人工の構造物でつくられている都市空間を、もとある土地の自然の水系や生物など生態的なものを都市のインフラとして回復させるという"ランドスケープ・アーバニズム"や"エコロジカル・アーバニズム"が生まれました。

そして、2010年頃からは、行政主導で都市全体を大きく変えるトップダウンの進め方に対して、小さなアクションを試し、そこから出てくる課題を計画に組み入れていく"タクティカル・アーバニズム"が多く実施されています。

中島さんが現在進めておられるプロジェクト『高島平プロムナード再生』註2)は、1970年代に生まれたニュータウン高島平への新しい居住者の流入を目的として実験的なプロジェクトから始められたもので、タクティカル・アーバニズムの例と言えるかもしれません。かつては道路と鉄道のエリアと居住エリアを隔ってきた干渉緑地を、役割を捉えなおして、休憩できるスペースや腰かけ台を設置してみるなどの実験をおこないました。すると、住民たちはその空間を使い出し、実験を重ねることでニーズが見えてきたり、ここを使いたい人や用途が新たに生まれてきたりしているそうです。

鉄道芸術祭vol.8関連トークプログラム|「都市計画の思想と場所」 中島直人さんをお迎えして(2018/11/13)

都市計画と人の関係、未来の都市の姿

都市計画の思想の変遷を辿ると、都市が交通インフラや建物などのハードを中心に計画されていた時代から、現代ではそこに住む人々の生活との関連性がより強まってきているのが感じられました。中島さんは、コペンハーゲンやニューヨークの人々の生活が都市の空間にデザインされた例を挙げながら、同時に「いいまちにはそのまちを面白いと思っている人、面白い場をつくっている人がいる」と言います。アーバニズムには、アーバニスト(都市計画家)の存在が、欠かせないということです。

大阪は日本では水辺の利用が進んでいるといわれますが、来場者の質問に中島さんは「大阪の人は水が都市をつくってきたという意識が強いのではないか」と答えられました。まちの人の気質が都市をつくっている顕著な例だと言えるのかもしれません。では、未来の日本の都市はどうなっていくのでしょう。多数となる高齢者のモビリティが確保される姿になっていかざるをえないであろうと、中島さんは考えています。それは、自動運転や他の新しい技術革新を伴っていくでしょう。未来のアーバニストはどのような生活スタイルを求め、都市は様々な要素を包み込みながら、どのようになろうとするのでしょうか。

鉄道芸術祭vol.8関連トークプログラム|「都市計画の思想と場所」 中島直人さんをお迎えして(2018/11/13)

註1)  中島直人氏スライドより 「『盛り場計画』のテキスト 夜の都市計画」、『都市公論』、15巻8号、1932年
註2) プロジェクト名『高島平プロムナード再生』は当日配布資料より

ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.8
鉄道芸術祭vol.8オープニング・プログラム 「ギャラリートーク&パーティー」

 2018.11.10(B1事務局 江藤)

鉄道芸術祭vol.8「超・都市計画 〜そうなろうとするCITY〜」が開幕し、初日の11月10日(土)15時よりオープニングプログラムのギャラリートーク&パーティーをおこないました。

本展覧会では、日本初紹介となるオランダ出身のオスカー・ピータースさん、加納俊輔さん、迫鉄平さん、上田良さんによるユニットTHE COPY TRAVELERS、ゲーム作家の飯田和敏さんの3組のアーティストに参加していただいています。

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まずはロビーで、それぞれから自己紹介をしていただきました。 

オスカー・ピータースさんは、
自身のホームページをスクリーンで見ながら過去の作品を紹介されました。ピータースさんは動きを取り込んだ彫刻作品をつくるアーティストです。お客さんがコインを入れると鉄棒に吊られたチェーンソーがいきなり動きだす作品など、時には危険を伴う作品を発表していて、人間の感覚にある楽しさとスリル感を同時に楽しむという相反するような性質に着目されています。

11月10日開催 鉄道芸術祭vol.8オープニングトーク/Oscar Peters

 

THE COPY TRAVELERSは、
写真や映像を使った作品などでそれぞれ個人として活動する傍ら、2014年秋頃から一緒にコピー機を使った作品などを作るようになりました。煩わしい作業なしでコピー機の上にいろんなものを載せてスタートボタンを押すと一瞬にしてイメージを定着させることができるということに面白みを感じ、コピー機、カメラ、スキャナ、PC作業など光学機器などをフルに活用しながらイメージをどんどん作っていくことを続ける、終わらない作業の中に作品があります。

本展覧会のポスターやパンフレットなどのメインビジュアルは、THE COPY TRAVELERSに作品と同じ手法で手掛けてもらっており、ここにはオスカーさんのコースターのライダーである「ピーナッツマン」、ゲーム作家の飯田和敏さんのゲームキャラクターの「巨人のドシン」の存在が写っています。

11月10日開催 鉄道芸術祭vol.8オープニングトーク/THE COPY TRAVELERS

 

飯田和敏さんは、
1999年ニンテンドー64DDというハードでプレイできるゲーム<巨人のドシン>を復元して展示。実際に来場者の皆さんに遊んでもらえる最後のものになるだろうとのことです。もう一つの展示は、最先端のVRを使った、オープンソースの地図データシステムを使ったゲーム<水没オシマイ都市>。中之島を起点にして、リアルタイムに土地の姿を来場者の皆さんで生成していくというゲームです。

11月10日開催 鉄道芸術祭vol.8オープニングトーク/飯田和敏

 

 

本展覧会では、二次元のTHE COPY TRAVELERS、三次元のローラーコースターを作るオスカー・ピータースさん、四次元ゲームを作る飯田和敏さんという三者で会場を構成しています。

異なる次元の三者が同じ空間で展示することについて、THE COPY TRAVELERSの迫さんは、オスカーさんの作品越しに配置を考えていき、場所によっては見えづらいところもある点など、「都市計画」に結びついていったと言います。

ところで、「そうなろうとするCITY」という副題をつけていただいたのはTHE COPY TRAVELERSです。上田さんによると、あらゐけいいちさんの漫画<CITY>やカート・ヴォネガット・ジュニアの小説<タイタンの妖女>が考えのエッセンスとなったそうです。特定のものが人によって重要度や捉え方が違うということ、何かを動かすために必要な意思というものが自分とは離れたところにあるという物語の要点が、都市が自分たちの意思とは違ってどんどん変化していくさまに同様のものとして感じられ、都市自体が意思を持ってつくっていくものであれば、自分たちも豊かにものをつくられるのではないかと考え、「そうなろうとするCITY」という言葉に至ったと言います。

オスカーさんのローラーコースターは、コースターの部分を第三者に作ってもらうという要素があり、それはinclusiveness、いろんなものを包み込んでいくような性格の作品であることを重要視しているそうで、飯田さんはビデオゲームは作者の思いとおりにプレイしてくれないので、inclusivenessということを織り込まないとつくれないと言います。まさに、都市の形成というものにリンクするようなお話でした。

 

 

次に、ギャラリースペースを歩きながら、各作品のアーティストに説明をしていただきました。

11月10日開催 鉄道芸術祭vol.8オープニングトーク/Oscar Peters《Underground》

入って正面の長い壁面には、THE COPY TRAVELERSの多数の作品が横長に掲示されています。中之島を三人で歩いたり、各々で散策したりしながら撮影した写真素材やオブジェクトを並べて作品化していったそうです。

オスカーさんは、まずコースターを製作したdot architectsの皆さんに謝意を述べられた後に、作品を設計する際に苦労したことを話されました。というのも、アートエリアB1のギャラリースペースの天井高があまり高いほうではなく、それに比べて奥行きが長いということでライダーが走りきることを可能にするために苦心したそうです。

11月10日開催 鉄道芸術祭vol.8オープニングトーク/飯田和敏 (ゲーム菩薩グループ)《水没オシマイ都市》 

ローラーコースターのコースの中には、飯田さんがメンバーとして参加されているゲーム・クリエイターチーム「ゲーム菩薩グループ」の作品<水没オシマイ都市>のスペースがあります。

ちょうど、来場者の方が体験をされていて、その動作を見ながら飯田さんが説明を加えられました。プレイヤーはヘッドマウントディスプレイを装着し、両手にコントローラーを持って、平泳ぎをするように進んでいきます。

コースの外に、飯田さんの20年前の実際に販売されていた<巨人のドシン>の作品があります。来場者の方が実際にプレイをした履歴が保存され、新しい土地が造成されていきます。

  

鉄道芸術祭vol.8・特別冊子「THE COPY TRAVELERSのそうなろうとするCITY」

壁面とは別に、コースの中や<巨人のドシン>の左の壁面には、THE COPY TRAVELERSの作品があり、柱面には彼らの制作プロセスを記録した映像が流れています。また、本展の特別冊子「THE COPY TRAVELERSのそうなろうとするCITY」を本展の受付にて限定販売しています。

 

 

 

飯田さんの「作品を内から見ているのか外から見ているのかという視点でとらえなおすと面白いのではないか」という言葉は印象的でした。THE COPY TRAVELERSの作品の中にある世界と外、ローラーコースターの内と外、ゲームの世界の内と外、展示空間と眼下に見下ろせる駅という現実空間など、意識が曖昧になっていくような感覚の揺らぎも楽しんでいただけるのかもしれません。

その後、展覧会の実現に協力いただいた方、プログラムに参加してくださった方々に感謝の気持ちを込めて、そして開幕を祝って、お越しの皆さまで乾杯をし、参加アーティストを交えて歓談の時間を過ごしていただきました。 

11月10日開催 鉄道芸術祭vol.8オープニング・プログラム

鉄道芸術祭vol.8「超・都市計画〜そうなろうとするCITY〜」は来年1月27日(日)まで、そして1月14日(月・祝)には電車公演「ラジオになろうとする電車」を開催します。引き続き、みなさまのご来場、ご参加お待ちしています!

(撮影:Yuki Moriya)

 

鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」
鉄道芸術祭vol.7イベントプログラム

 2018.1.20(B1事務局 三ヶ尻)

11月10日より、約2ヶ月半にわたり開催してきた鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」

展覧会最終日の前日となる1月20日(土)、ゲストとして太陽バンド野村卓史さん(a.k.a.グットラックヘイワ)、そして鉄道芸術祭vol.7メインアーティストの立花文穂さんにお越し頂き、鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」 を行いました。

太陽バンド(=畑俊行さん)と野村卓史さんによる音楽ライヴは「ハタチのわたし」を皮切りにスタートしました。

1.20鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」

■セットリスト

M1.ハタチのわたし

M2.ガールフレンド

M3.UZMAKI

M4.つらら

M5.東京グラフィティ(with とんちピクルス)

M6.夢の中で泣いた(with とんちピクルス)

M7.セレナーデ

M8.IL TRENO(THE TRAIN)

M9.かつて彼らが旅したように

アンコール. 夏の終わりの大三角形

 

今回ライヴ会場となったのは、鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」の展示会場の真ん中。

壁に写る立花文穂さんの映像作品「川の流れのように」を背中に、太陽バンドの力強く熱のこもった声と、野村卓史さんの心地よく五感に染み込むような音が混ざり合います。

 

1.20鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」メロウな曲で会場をしっとり、そしてうっとりさせていた時、今回シークレットゲストとしてお越しいただいたとんちピクルスさんに登場して頂きました。

「東京グラフィティ」では、痛快でリズミカルなとんちピクルスさんのラップで一気に会場を盛り上げます。 全国津々浦々、鈍行電車を乗りついでライヴ会場へと向かうとんちピクルスさん。乗り継ぐ電車の中でつくられた曲「夢の中で泣いた」では、参加者の方々が左右に揺れたり、目を瞑ったりして、音に心地よく身を委ねる様子が度々みられました。

 

1.20鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」

そしてライヴのクライマックスとして、鉄道芸術祭vol.7の為に用意された曲「IL TRENO(THE TRAIN)」を初生演奏していただきました。

こちらの曲は、鉄道芸術祭vol.7のはじまりとなったポルトガルの旅の途中、立花さんが蚤の市でみつけた古楽譜「IL TRENO(THE TRAIN)」を野村さんに託したことからはじまりました。今回のライヴでは曲の最後に「中之島ブルース」をミックスし、クロージングイベント特別バージョンとして演奏されました。客席から手拍子が起こり会場が一体となります。(ポルトガルの旅については、使節団トーク『車窓の窓から〜ポルトガル編〜』からご覧下さい。)

さらに、こちらも鉄道芸術祭vol.7に出展された作品のひとつ「かつて彼らが旅したように」でライヴは締めくくられました。こちらは、本展参加アーティストであり、ポルトガルの旅のメンバーでもある作家・石田千さんが作詞され、そして作曲を太陽バンドにして頂きました。

1.20鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」

続いて会場は、立花文穂さん、太陽バンドと野村卓史さんによる鉄道芸術祭vol.7クロージングトークへうつります。

はじめに、さきほど演奏いただいた曲「IL TRENO(THE TRAIN)」からトークはスタートしました。

「IL TRENO(THE TRAIN)」は、約50年前にウォルター・ベルトラミという音楽家が即興で演奏した音を譜面に書き起こしたものです。とくにこの曲は、タイトなリズム、曲芸のような変拍子基調というようにウォルターの超絶テクニックを持ち合わせた演奏だったため、譜面をみた者を驚かせるほど難解な楽譜となったそうです。
立花さんからこの楽譜を渡された野村さんも例外ではなく、真っ黒になるくらいに音符が並ぶ譜面をひとめ見ただけで、これは難しい曲だと感じたと言います。しかし、野村さんは一度曲を聞いてみて興味が湧き、立花さんからの申し出を受けたくなったと言います。

 

そして話題は、本展のタイトル「STATION TO STATION」へ。

そもそもこのタイトルは、デヴィッド・ボウイが "いかに異文化を取り入れるか" をテーマに制作した9作目のアルバムのタイトルから引用したものでした。このアルバムには、新しい文化を取り入れるメタファーとして、タイトルに「駅」が使用されたと言われています。

展覧会が進むにつれ立花さんは、《AからB》《場所から場所》《文化から文化》へなど2点が繋がること、その繋がる過程、またはレールのように2本の鉄が横に並ぶことによりはじめて鉄道が走ることができるなど、ひとつではなく【ふたつある】ということの重要性に改めて気がつき、「STATION TO STATION」というタイトルが本展に相応しいと日々重ねるごとにさらに実感していったと言います。

1.20鉄道芸術祭vol.7クロージングイベント「IL TRENO(THE TRAIN)」クロージングトーク

本展は【鉄道と身体・知覚・行動】をテーマに、21組の異なるジャンルのアーティストたちによって展開されました。立花さんが責任編集長を務める雑誌『球体七號』としても展開していた本展では、「七號(上リ)」「七號(特別臨時便)」「七號(下リ)」「七號(下リ・最終便)」を刊行。本展のオープニングトーク『立花文穂、STATION TO STATIONを語る』で立花さんがおっしゃった「『球体』はできあがってからできていく。」という言葉のとおり、展示会場も日々進化していきました。

たくさんの点と線が行き交い、約2ヶ月半にわたり開催した鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」。ご来場くださいました皆様、展覧会を支えてくださった皆様、誠にありがとうございました。

「集団と群衆の心理学」(釘原直樹さんをお迎えして)
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭

 2018.1.19(B1事務局 菊池)

1月19日 (金)
ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「集団と群衆の心理学」
ゲスト:釘原直樹(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)
カフェマスター:沢村有生(大阪大学21世紀懐徳堂 特任研究員)


鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」とのコラボレーションシリーズとして開催してきた"ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭"、本日はシリーズ最後のトークでした。
今回の鉄道芸術祭では「鉄道と身体・知覚・行動」をテーマにしています。
人間の集団における知覚、行動とその心理についてより深く掘り下げていくための関連トークとして、ゲストに集団心理の専門家である大阪大学教授の釘原直樹先生をお呼びしてお話を伺いました。
人間社会ではある程度の人数の集団・組織が形成されると、暗黙の守るべきルールや約束事である「行動規範」が出来上がってきます。では具体的に行動規範とはどのようなものがあり、どれくらい人は影響を受けているのでしょうか。
それを検証したのが以下の「同調実験」です。

20180119集団と群衆の心理学1
最初にご紹介いただいたのは、大阪のエスカレーターにおける同調実験です。
エスカレーターに乗る場合に、大阪では右側、関東では左側に立つことが慣例となっていますが、そこへ逆方向に乗るサクラを混ぜていくとどの程度が同調して逆に乗るでしょうか。
実施場所は大阪モノレールの「門真市駅」と「大阪空港駅」の2箇所で、実験時の利用者内訳(近畿在住者の割合)は門真市駅が88%と大阪空港駅53%でした。
門真市駅では元々左並びがほとんどいなかったにも関わらず、2割近くの人がサクラにつられて左に並びました。それに比べ大阪空港駅ではサクラからの同調圧力がとても強く、数名のサクラが並ぶと、なんと最大7割以上の人が左に並ぶという結果が出ました。
サクラに続いて並んだ人数をカウントすると、サクラの人数を増やしても門真市駅は最大4人しか並ばなかったにも関わらず、大阪空港駅では10人以上の人が並びました。
こうしたことから、人は「暗黙の規範」に拘束されるとともに、その場の同調圧力の影響を受けて微妙なバランスの上に立って行動しているのではないかと推測できます。

では、集団が間違った判断をした時、人は同調圧力にどの程度耐えられるのでしょうか。
これは1950年代に行われた古典的な同調実験を2〜3年前に釘原さんが独自の方法で行った実験です。
実験には8名が参加しますが被験者は1名だけ、それ以外は全員サクラです。AとB、二つのカードのうちAには1本の直線が、Bには長さの異なる3本の直線が描かれており、その中からAと同じ長さの直線を当てます。サクラが全員間違った解答をしたあとに被験者が答えます。
一人で答えた場合はほぼ100%間違うことはありません。しかし7人のサクラが順々に全員間違いを選び、それを見て最後に被験者の番が回ってくると、同調圧力に負けて、自分ではそれは間違いだろうという態度をそれまで取っていながらも、なんと間違いを選んでしまうのです。
こういった実験からも、いかに人が同調圧力に影響されるかということが伺えます。

20180119集団と群衆の心理学2


「同調」というのは、他の人に合わせて楽をしたいという気持ちが背後にあり、それは「社会的手抜き」につながっていきます。
「社会的手抜き」とは、綱引きや神輿など、たくさんの人が一緒に行う場合、意識的・無意識的問わず、人任せになり一生懸命さが失われてしまうことを言います。それは「2:8の法則」などとも言われ、10人が集まれば大体2人は怠けている、というものです。


例として釘原さんが以前行った、「社会的手抜き」を数値で現す実験を紹介してくださいました。
9人で、壁から出た別々のロープを同時に引っ張って合計の力を計測します。計測係にのみ、個別の数値がわかるようになっています。
これの結果によると、一人の場合と複数人になった場合では一人で引いた時の方が出す力が大きく、人数が増えるほど力が弱まる傾向が見られたそうです。
この実験から、「個人が評価されない状況」や、「個人が努力しても全体の結果に対して無駄と思えてしまうような状況」になると、意図している・いないに関わらず、手を抜いてしまうことがあると言えます。
また、そういった手抜きをしている人が他にもいると思うことから、手抜きの同調といったことも起こります。

20180119集団と群衆の心理学3


そういった「社会的手抜き」や「同調」の心理を利用した仕組みが社会にはあります。
「オプトイン・オプトアウト」という、臓器提供意思表示で「臓器提供を望まない人はチェックを入れる」という意思表示の形式や、メールの返信における「返信がない場合はこのまま進めさせていただきます。」という形式などに見られる、デフォルトの選択肢の設定の仕方によって面倒臭さをなくし、なるべく選択肢を少なくすることで、望む回答を得るものなどです。


集団・組織の内にはそれぞれに役割があり、それを演じ守ることで組織の安寧やバランスが保たれています。役割には主に「ヒーロー」、「小役人」、「マスコット」、「スケープゴート」の4種類があります。
組織を運営していく上で、ルールを守らなかったり、なまけていたりする人(悪人、主にスケープゴートに該当する)がいるということは上記の「2:8の法則」からもわかるように必ずあります。
しかし、それらの人を排除してしまえば良いかというと、必ずしもそうとは言えません。そういった人の組織への影響力は、ヒーローの役割を持っている人などに比べると低いので、善(品行方正、主にヒーロー)な人が間違った場合の方が大きな過ちが起きることもあります。
「善がいいかというと、必ずしもそうではないのです。」と釘原先生は仰います。
そういったスケープゴートにヒーローが自分の落ち度を被せ、排除していくということも起こります。しかし、排除することが原因の解決にはなっていないので、同様な問題が再び起こり、そうして排除を続けていくと、組織の士気も落ちていき、運営はうまくいきません。
集団の中にいるなまけものを許容する「寛容さ」が、長い目で見ると集団の存続に役立つのではないか、集団の健全さの一つの指標になるのではないかと釘原さんが仰っていたのが印象的でした。

20180119集団と群衆の心理学4
今回のお話を聞いていて最終的に、個性を認める、寛容する、ということについての話に思えました。
ある一側面から見たら「なまけもの」は足を引っ張っているだけかもしれませんが、見方を変えればそのような人がいることで、社会や組織はバランスを保っていると言えます。また、全く違う側面では高いパフォーマンスを発揮している場合もあるかもしれません。
寛容になることによって、組織は保たれるうえ、さらに他の可能性も見えてくるのではないか、という気がしました。
今の社会では、多様な考え方がある割に価値観が一辺倒すぎるように感じます。
人の多様さを寛容に受け入れることの重要さを、改めて感じました。

「グラフィックデザインと鉄道」(植木啓子さんをお迎えして)
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭

 2017.12.12(B1事務局 スタッフ 菊池/サポートスタッフ 林)

12月12日(火)、鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」の関連企画、ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」を開催しました。

 

ゲストに、日本屈指のグラフィックデザインのコレクションを誇る大阪新美術館建設準備室主任学芸員の植木啓子さんをお迎えし、鉄道とグラフィックデザインの歴史や、その親和性についてお話いただきました。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」 鉄道がまだ生まれていない時代では、距離的にも人数的にも一度にたくさん移動することは物理的に限界があったので、大勢の人が同じ何かを目にする機会はなく、大衆に向けて情報を発信する必要がさほどありませんでした。しかし、鉄道ができたことで大勢の人が一箇所に集まることが実現し、それにより「都市」が生まれたため、"大衆を意識した視覚表現=広告"の必要性がでてきたのです。そこで注目されたのは、大勢にイメージを拡散することのできる広告としてのグラフィックデザインでした。

 

その最も有名なひとつの例として、ロンドン地下鉄の路線図について、まずお話いただきました。

 

地下鉄路線図のデザインで最も重要な転換点があったのは、1931〜32年でした。
それまでの路線図は地理的に縮尺が正確に示されており、目的地までの経路が一目では分かりづらいものでした。そんななか地下鉄の地図に本当に必要なものは何かと考えられた時、伝えたい情報と関係の薄い「正確な距離や地形」などを簡素化して、電車の経路だけをシンプルなデザインに落とし込んだ路線図が発表されました。

この路線図を作成したのは、デザイナーではなくヘンリー・チャールズ・べックという製図技師でした。
ヘンリーの作ったロンドン地下鉄路線図は、現在わたしたちがよく目にする路線図の雛形とも言えるものを作り上げたのです。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」

また、当時は、地下鉄の利用客は通勤だけを目的とする人が中心でした。しかし線路はその区間以外にも長距離に通っており、通勤客とはまた別に昼間の乗客層を増やそうと考えました。

時間に余裕のある人をターゲットに、地下鉄を利用して如何に遠くまで行ってもらうか、旅行してもらうかということが思案されました。

それまでの駅のポスターは決まった箇所に決まった情報を貼るだけのもので、鉄道の旅客は一向に増えませんでした。しかし1920年代~30年代にかけてアーティストたちが描いた鉄道に関するポスターは、快適な列車内のイメージや、鉄道で到着した先にある観光地の美しいイメージなど、鉄道を使うことにより素晴らしい体験が出来るというイメージを主張したものを使用。これらのポスターをそれまでとは違った様々な箇所に掲出して、鉄道の良いイメージを拡散する手段"広告"として使われはじめました。こうして鉄道広告は誕生していきます。

 

また、路線図、会社ロゴ、広告というものがそれぞれバラバラなデザインのものではなく、1つのコンセプトで統一することで、快適で安全な「ロンドン地下鉄」というイメージブランディングを、グラフィックデザインを使って形作っていったのです。

 

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」

 

続いて植木さんが示したのは、ロンドン交通局で使われる『Johnston100』という100年間同じ文字を用いて作られたポスターでした。

活版で作成された、同じ文字をずっと使用してポスターが作られているのには、それなりのベースがありました。これらのポスターは5つの文字の太さ、即ちウェイト(活版の重さ)を持たせて、ヘアライン仕上げされたものです。こうした独自のフォントを使いつづけることでロンドン交通局のイメージブランディングに非常に大きな役割を果たしました。この文字は現代のデジタル化に合わせて2016年に改定され、現在に至っています。

 

 

続いては、いくつかの鉄道とデザインの進歩に非常に関連のある、ポスター資料を紹介いただきました。時代とともに鉄道技術は進歩し、デザインに必要とされる事柄、概念もどんどんと変化・進歩していきます。

フランスの鉄道広告製作者であったカッサンドルは、今で言う「効果線」のようなものを、エアブラシを用いて描画することで鉄道のスピード感を表現したポスターなどを作成し、線路や車輪などをピックアップしたデザインを用いることで鉄道のダイナミックさを表現しました。

またPULLMAN急行(所謂オリエント急行の運行会社)がヨーロッパの様々な国を跨いでサービスを提供することを告知するためのポスター「一つの国、一つのヨーロッパ Wagons-Lits」なども紹介頂きました。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」 広告ポスターはある時期からアーティストがデザインを任されることが多くありましたが、やがてだんだんと広告ポスター専門の作家デザイナーが登場してきます。代表的なものはPLC(パリ、リヨン、コートダジュール)。これには佐伯祐三という、何と大阪出身の日本人が大きく活躍していたりします。

そして1960年代になると、サービス広告が増えていきます。例えば、ポスターの半分は男性のシルエット、もう半分は女性のシルエットで彩られた利用客層のイメージに関するものや、他社線の半額で旅行ができるというお得感を表したポスターなど、現代に通じる多種多様な広告が生まれてきます。

 

一方日本における鉄道広告は、明治時代には広告が禁止されていたために大正時代以前の資料は余り残っていません。しかし大正時代になると、広告は収入になるということが判り、どんどんと発展していきました。

日本での初期の鉄道ポスターである「梅田難波間全通」という大阪御堂筋線開通時のポスターがあります。「梅田」「難波」という文字を並べ、電車を配置し、単刀直入に伝えたいメッセージを表現しています。当時日本にはまだグラフィックデザイナーという職種はなく、おそらく路線のことを良く判っていた現場の人間が指示を受けて、描いていたのではないかと思われます。そのためか、当時の駅の広告枠にはデザインによる統一感はなかったそうです。即ち本来、グラフィックデザインと広告グラフィックデザインとは分かれているのですが、日本においては垣根がありませんでした。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」

こうして、鉄道とセットになっているグラフィックデザインに関する話が時代に沿って次々と展開していき、デザインにおける考え方、概念に移っていきます。

20世紀に入りフランスのグラフィックデザイナーのカッサンドルは、広告に対し次のようなことを提唱しました。『この場所にはこの表現というように場所ごとに一目見て判るような表現が求められているのではないか』というものです。

 

鉄道芸術祭vol.7は『鉄道、身体、知覚、行動』をテーマに、文字と情報のあり方を考えるような展示でした。

現代の都市に目を向けると、例えば最近の駅などにおける階段の広告や電車扉の広告、ラッピング電車など情報発信として貪欲ともいえますが、その背景には鉄道の仕組みそのものが、色々なものに対して貪欲であるということを考えると納得ができます。

鉄道広告は、広告媒体の変化と共に内容、場所ともに変遷をしていきました。現在の電車内では様々な形の広告が展開していますが、まだ広告として使えるようなスペースはたくさんあり、今後広告を含めた車内デザインがどのように変化していくかも楽しみなところです。

 

 

最後に、印刷にはアート印刷とそれ以外の通常の印刷がありますが、通常の印刷が簡単に出来るようになってしまった分、質が低下してきていることに植木さんは警鐘を鳴らしています。また反対にとても緻密なものもあり、印刷のクオリティにも差が出てきています。これからは、印刷を見る受け手側もビジュアルを判断する能力を身につけることが必要なのかもしれないとおっしゃられました。

 

現代の都市生活の中で、グラフィックデザインは何気なくも常に目に入るものではありますが、だからこそ、それが人々の行動や興味、情報認識、さらには組織のシステム、イメージなどに深く関わるとても重要な役割を果たしていることを、鉄道に関わるグラフィックを通して改めて思い、その進歩と現在のカタチやこれからの在り方などを思考することで、とても興味深く感じました。特に電車内など、今後どのような斬新な広告形態が出現するかといった、社会や技術の変化によるグラフィック表現の進歩にもさらに注目をしたくなりました。

「レールの曲げ方概論」
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭

 2017.12.8(B1事務局 菊池)

12月8日(金)、鉄道と現代美術の企画展・鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」の関連トークとしてラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「レールの曲げ方概論」が開催されました。

今回の展覧会「鉄道芸術祭vol.7」の展示作品の中には、本物の鉄道レールが立花さんの彫刻作品として出品されています。長さ5メートル程度、重さは300kgほどになります。
このレールは、本日のゲスト「工務部保線課」のお二人に京阪車両基地で曲げて頂いたものです。これを中心に展覧会の構成が組まれていったという経緯がある重要な作品で、保線課の方々の仕事なしには得られないものでした。
では、保線課の仕事とは何なのでしょうか。

普段電車に乗るときにはあまり意識していないものの、それがないと電車は走ることが出来ない「線路」。日々線路に危険がないかを点検し、整備し続ける京阪電車「工務部保線課」のお二人をゲストにお迎えして、保線課の日々の業務内容や、実際のレールの加工についてなど、私が日頃知り得ない「線路(軌道)」のお話を伺いました。

12.08ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

ゲスト:
木戸宏(京阪電気鉄道(株)工務部保線課大阪保線係主任)
築山拓矢(京阪電気鉄道(株)工務部保線課設計担当)

カフェマスター:
塚原悠也、木ノ下智恵子(アートエリアB1運営委員)

まずは今回のトークタイトルにある「レール」や「線路」が何を指すかというところからトークは始まりました。
線路とは、レールだけで構成されているのではなく、主に《砂利や砕石(バラスト)》、《枕木》、そして《レール》の三つで構成され、これらは「軌道」と呼ばれます。他にも線路には頭上の電線やそのほかケーブルや信号などの構成物もありますが、今回のトークでは、本日のゲスト「保線課」のお二人が担当される「軌道」についてのお話がメインとなりました。
ゲストの木戸さんは保線課一筋30年の職人さんであり、築山さんは設計、経理担当です。
京阪電車は住宅地の間を縫って走っている為、とてもカーブの多い路線です。今回はインターネット上の地図を使って京都の路線を俯瞰しながら話していきました。
乗っているとあまり感じないことも多いですが、地図上で見てみるとかなり急なカーブもいくつかあります。

12.08ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

では、そのレールは一体どうやって曲げているのかというお話に入っていきました。
1メートルあたり約50kgという、とても重くて硬い鉄の塊を曲げるには、機械ではなくレール敷設現場で人間の手で曲げています。先に設置してある枕木に沿って、テコの原理を使って人力で少しずつ曲げて入れていくので、機械であらかじめ曲げたものを入れるということはありません。機械を使って曲げるのは、ごく限られた特殊な一部分のみです。
機械で曲げる場合は専用のマシンを使って行われます。レールを左右2点で挟み、真ん中をジャッキで押すという、かなりシンプルな仕組みです。機械自体は小型のため、レール全体を一度に曲げるのではなく、機械を少しずつ移動させながら全体を曲げる作業を行います。

1208ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

レールの主な原料は鉄です。かなり純度の高い、上質な鉄が使われています。
鉄は温度の変化によって膨張したり収縮したりするので、鉄の塊であるレールも気温の変化によって、なんと伸び縮みします。場合によっては曲がったり千切れたり、特に夏場は急激な熱膨張で、枕木に押さえつけられているレールが一気に伸びる瞬間に「ボン!」と破裂音がすることもあります。
そういったレールの変形に対応する為に、継ぎ目には多少のすき間がわざと空けてあります。走行中の「ガタンゴトン」という電車特有の音は、この継ぎ目を通る時に鳴る音なのです。
日々軌道(線路)の状態を監視して、夏はすき間を広げ、冬は逆に間を詰め、異常があれば交換したりと、電車を運行する上で危険な箇所がないように、巡回しながら点検、補修・維持管理を行うことが、保線課の主な業務です。

具体的な点検方法は、電車の運転席の隣に乗ってレールを目視しながら車両の揺れを感じる調査や、実際に線路に下り目視で点検します。
点検の結果異常があった部分のレールを交換する場合は、枕木はそのままにレールのみを交換します。当然1mmのズレもなく、元あったものと全く同じ場所に、寸分の違いもなく設置していきます。それらは全て、人の手で行われています。
近年は機械化が進み、異変箇所の調査に機械を用いるようになりましたが、機械の数値だけでは見えないものもあるため、最終的にはmm単位のレールのズレを、身体の感覚で判断して調整していきます。「保線は経験工学」と言われており、経験を積んだ人間が判断し、作業をするという、まさに文字通りの職人の世界です。
自分の保線担当箇所は、「自分の家の庭だと思って手入れしろ」と木戸さんは入社当時に先輩社員から教わったそうです。
日々伸び縮みして変化するレールは「生き物です」というお二人のお話がとても印象的でした。

 12.08ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

今回のトークは、「レール」がテーマで実際の作業をされている方がゲストということもあり、非常に電車に関心の高い方が多く参加されていました。トーク後半の質疑応答では待ってましたとばかりにかなりマニアックな質問が次々と飛び交い、とても賑わいました。レールの繋ぎ目を溶接する場合の方法や、レールのより詳しい曲げ方、車輪とレールの接地面の荷重について、京阪で一番長いロングレール(溶接された、継ぎ目のないレール)の長さ、レールの敷設時の持ち上げの方法、などなど。時間ギリギリまで質問は尽きませんでした。

普段から電車に乗るときだけでなく街中でもよく目にしているはずの線路ですが、あまり気にしたこともなく知らないことばかりでした。まさかレールが温度でそこまで変化するようなものだとは思いもよらないですよね。
それは裏を返せば、鉄道利用者が「気にならない」レベルまで異常が起こらないように、常に点検と補修をしている保線課の皆さんをはじめとした鉄道会社の安全管理の徹底さを表している、という話がありました。
乗るたびに「電車は危険かもしれないから覚悟をして乗る!」などと考えるようなものは普段から気軽には利用できません。
高速で移動する電車には本来危険なことがたくさんあるはず。そこをしっかりと確実に安全を確保し、利用者が危険を感じることのないよう、電車は安全でしかも正確であるという信頼を昔から勝ち取ってきた日本の鉄道会社の仕事のレベルの高さがあるのだということを感じました。

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