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ラボカフェスペシャル featuring サーチプロジェクト
オープニングトーク「ニュー"コロニー/アイランド"3 ~わたしのかなたへ~」

 2017.4.7(B1事務局 サポートスタッフ川原)

アートエリアB1で3月28日からスタートした企画展「ニュー"コロニー/アイランド"3〜わたしのかなたへ~」。4月2日(日)は関連プログラムとしてオープニングトークを行いました。ゲストには、今回の展覧会のプロジェクトメンバーである大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授の吉森保さん、建築ユニットdot architectsから家成俊勝さん、土井亘さん、寺田英史さん、アーティストのやんツーさんをお迎えしました。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク01

オープニングトークでは、2015年からの「ニュー"コロニー/アイランド"」展1と2の振り返りと、dot architects、やんツーさん、吉森さんからの活動内容や研究内容のご紹介、そして実際に展覧会場を巡りながらギャラリートークを行いました。

 

〜「ニュー"コロニー/アイランド"」展の振り返り〜

本展は、「ニュー"コロニー/アイランド"」と題した展覧会の第3弾であり、シリーズ最終回となる展覧会です。

本題のトークに入る前に、まずは2015年と2016年の展覧会を振り返りからスタート。

2015年は、「ニュー"コロニー/アイランド" 〜"島"のアート&サイエンスとその気配〜」と題し、プロジェクトメンバーに大阪大学理学研究科 教授の上田昌宏さん、北海道大学電子科学研究所 教授の中垣俊之さん、建築ユニットのdot architects、アーティストのやんツーさん、プログラマーの稲福孝信さんを迎えて、"島やコロニーの実験・創造性"と、"粘菌の知と工学的ネットワーク"をテーマに開催しました。会場では、粘菌を培養するラボと3Dプリンタで中之島の建造物を生成するラボ、"菌核"寺、1/150の中之島型の培地〈仮設の中之島〉と、壁面に投影された〈仮想の中之島〉などが設置され、〈仮設の中之島〉と〈仮想の中之島〉、それぞれで粘菌が異なる都市風景を生成していきました。

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続く、2016年の「ニュー"コロニー/アイランド"2 〜災害にまつわる所作と対話〜」では、アドバイザーとして惑星地質学・鉱物学研究者で大阪大学理学研究科 准教授の佐伯和人さん、民俗学者で東北大学災害科学国際研究所 教授の川島秀一さんにご参画いただき、東日本大震災から5年目を迎える年に、改めて地球の営みとも言える地震による地殻変動などの「災害」について考え、様々な視点から「対話」を試みる展覧会を開催しました。出展者には、3がつ11にちをわすれないためにセンター/せんだいメディアテーク、写真家の畠山直哉さんや米田知子さん、志賀理江子さん、ホンマタカシさん、漫画家のしりあがり寿さん、現代美術家の高嶺格さんや小山田徹さん、加藤翼さん、contact Gonzoなど、国内外で活躍する表現者や公共団体等が集いました。会場では、一軒家を模した空間の随所に、それぞれの作品や活動記録、また過去の災害にまつわる資料が壁紙やファブリック、テレビに映る映像として展示され、会期中には"リビング"や"庭"などで様々なテーマで対話プログラムが繰り広げられました。

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そして、今年の展覧会。「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」と題した本展は、"わたしたち自身"に着目します。

プロジェクトメンバーには、2015年の「"島"のアート&サイエンスとその気配」のプロジェクトメンバーでもあったアーティストのやんツー氏、同じく2015年のプロジェクトメンバーであり、2016年の「災害にまつわる所作と対話」では会場設計・施行を担当した建築ユニットのdot architects、そして今回はコンセプターとして大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授の吉森保さんをお迎えしました。

 

〜プロジェクトメンバーによるそれぞれの活動紹介〜

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク05 dot architectsの活動紹介の様子

建築ユニットdot architectsは大阪を拠点に、建築設計事務所を運営されています。店舗や住宅の設計等のいわゆる建築設計事務所が行う仕事をする傍ら、一般的にイメージする設計事務所とは異なるプロジェクトでも参加されています。アートプロジェクトのパフォーマンスに参加し即興で空間をつくったり、展覧会の会場構成や地域の人たちと交流しながらコミュニティスペースの設計をするなど、自身の身体をつかってその場で空間をつくることをされています。今回は、私達の身体をつくるたんぱく質をイメージした細胞的遊戯装置が点在する体内公園「仮説公園」をつくっていただきました。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク06 やんツーさん活動紹介の様子

やんツーさん(アーティスト)は、デジタルメディアを使って作品をつくっています。いかに装置を有機的に動かせるかということに注目しており、装置にセンサーを仕込み、人の数や騒音量などの環境を規定する要因をセンシングして装置の動きに反映させたドローイングマシーンなどを作成されています。このドローングマシーンは自立して動き、抽象的な絵を描きます。そして現在、山口情報芸術センターで展覧会期中の作品では、大きさや種類の様々な展示物(扇風機やカラーコーン、車など)に、インターネットのホームページからアクセスすると誰でも憑依することができ、実空間の展示物をインターネット経由で動す作品を発表しています。

今回やんツーさんには、もうひとつの体内公園「仮想公園」をつくっていただきました。dot architectsが作成した細胞的遊戯装置にセンサーを仕込み、来場者が遊戯装置を動かすことで「仮想公園」の映像空間に反映されます。来場した際は、遊戯装置の動きがどのように「仮想公園」に反映されるのか是非ご注目ください。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク06

次に吉森保さんからご自身の研究についてご紹介いただきました。吉森さんの専門は、私たちの身体を構成する細胞内の事象の一つである「オートファジー」です。「オートファジー」は、大隅良典さんが2016年のノーベル医学生理学・医学賞を受賞した研究テーマです。ニュースなどで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。吉森さんは大隅さんと共に研究を行い、昨年の授賞式にも出席されました。「オートファジー」は細胞内で不要なものを分解し、また、新たなものを生成する細胞内リサイクルシステムの一部です。「オートファジー」は細胞内の不要となったタンパク質などを膜が包み込み、これが、分解酵素リソソームと融合し、たんぱく質がアミノ酸まで分解する現象です。このアミノ酸は適宜、再びタンパク質に合成され細胞の部品となったり、または、代謝されてエネルギーとなったりします。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク07

吉森さんのトークの中で、「ギリシャ神殿」と「伊勢神宮」の比較がありました。どちらも、数千年以上存在する建物ですが、一方は、一度頑丈に建てられてそのままの建築、もう一方は式年遷宮という儀式のもと、20年ごと建て替えられた建築です。しかし、建て替えられた「伊勢神宮」は、創建当時の姿といわれており、見た目に変化はありません。このことは生物に通じることであり、日々の生物の姿、細胞の見た目の変化は些細なものですが、体内に存在しているアミノ酸~それを構成する炭素、窒素、酸素、水素原子は、数日で入れ替わる劇的なものです。建築と生物の不思議な共通です。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク09 ギャラリートーク

今回の展覧会で展示している「細胞的遊戯装置の仮設公園」は、アミノ酸の種類数と同じくらいの約20種類部材とジョイント方法によって構成されています。遊戯装置がタンパク質、部材がアミノ酸を模しています。「仮設公園」を制作されたdot architectsの家成さんから、展覧会の開催中に「オートファジー」を起こし、3か月の展示の中で部材を循環・再生させていきたいとの話がありました。設営で余った部材は通常展覧会のオープン前に撤去するものですが、細胞内で浮遊しているアミノ酸のように、いつでもタンパク質合成=遊戯装置の組み立てできるように、会場内に置かれています。ご来場の際には、見つけてみてください。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク10 ギャラリートーク

展覧会場のもう一つの要素は、「仮想公園」です。dot architectsが制作した細胞的遊戯装置には、センサーが取り付けられ、来場者が装置を動かすと、「仮想公園」の映像が緩やかに変化してゆきます。仮設公園の遊戯装置と、細胞内の構造をモチーフに「仮想公園」を制作されたやんツーさんが仰られた「細胞のことを考えていくと、あれ?ここはどうなっているだろう、ということにぶつかる」という話には、はっとさせられました。実際に科学は、解明されていないことが、まだまだたくさんあります。細胞も同様です。教科書には、解明された断片のつなぎを、想像イメージで補って記されているにもかかわらず、読んでいると全部わかっているような錯覚に陥っていることが多くあります。「わからないことにぶつかる」というのは、実際に構築する側に立つと、見えてくる物事があると再認識する話でした。

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その他トークの中で、建築と細胞内現象の共通項は、高度経済成長期に作られたインフラの老朽化、建築のメタボリズム運動への言及まで広がりました。一方、デジタル技術の領域では、攻殻機動隊やAIの話題が飛び出し、身体運動と知能成長の関連について意見が交わされました。遠い分野の専門家が集うことにより、考えの輪郭がはっきりしたり新しいものの見方が生まれたりする面白さを感じました。

 

アートとサイエンスがぶつかった現場、そして身体感覚を研ぎ澄ます展覧会、「ニュー"コロニー/アイランド"3~わたしのかなたへ~」を是非見に来てください。

サーチプロジェクトvol.6「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」開幕

アートエリアB1の春の企画展・サーチプロジェクトvol.6「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」が3月28日より始まりました。

当館を活用して、アートや知の可能性を探求(=search)する企画展「サーチプロジェクト」。
2015年からは、「ニュー"コロニー/アイランド"」と題して3回にわたるアート&サイエンスの展覧会を開催しています。
〈これまでの「ニュー"コロニー/アイランド"」展〉
2015年 「ニュー"コロニー/アイランド" 〜"島"のアート&サイエンスとその気配〜」
2016年 「ニュー"コロニー/アイランド"2 〜災害にまつわる所作と対話〜」
昨年、当館を一軒の家に見立てて開催した「災害にまつわる所作と対話」の展覧会が記憶に新しい方もおられるのではないでしょうか?

これまで2年にわたって「島と粘菌の知」や「惑星地球と災害」をテーマにしてきた本シリーズ。いよいよ今年がシリーズ最終回です!
今年の企画は、「ニュー"コロニー/アイランド"3〜わたしのかなたへ〜」と題して、"わたしたち自身"に着目します。

プロジェクトメンバーには、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典教授とともに国内のオートファジー研究を率いる吉森保
建築設計・施工だけに留まらず、「瀬戸内国際芸術祭2016」などの様々なアートプロジェクトにもかかわる建築ユニット・dot architects
デジタルメディアを基盤に、グラフィティやストリートアートなど公共の場における表現にインスパイアされた作品を制作するアーティスト・やんツーをお迎えして展覧会と、会期中には多彩なトークプログラムを展開します。


ではさっそく、会場のなかを少しご紹介しましょう。

入口バナー、看板 注意看板

入口には印象的なピンクのバナーに細胞の営みのひとつである「オートファジー」の画像が配置されています。本展は、わたしたちの体の15%を占めるタンパク質の構造をメタファーにしてつくられた【仮設公園】と【仮想公園】という二つの空間で構成されています。

これらの空間は、「見る」と「遊ぶ」の二つの方法で体験することができます。安全に遊んでいただくために、入口で「ご入場前の注意事項」をよく読んでから臨んでください!

サーチ6ホワイトボード

さて、会場に入ると大きなホワイトボード。そこには会場図とともに、本展のキーとなるアミノ酸とタンパク質の階層構造が大学の講義さながらに記されています。

なんだか難しそうですが、簡単に説明すると......
タンパク質は20種類のアミノ酸でできています。この20種類のアミノ酸の組み合せ方によって何万種類もの異なる働きと役割を担うタンパク質がつくられていきます。そしてそのタンパク質同士がくっつき合うことでさらに異なる役割を担うタンパク質へと変化していきます。(学術的にはこれを1次元構造〜4次元構造として説明します)

そして会場の【仮設公園】には、だいたい20種類くらいの材料とジョイント方法でつくられた「細胞的遊戯装置」が点在しています。

サーチプロジェクトvol.6オープン02 サーチ6会場

この「細胞的遊戯装置」に来場者である皆さんが触れたり、乗ったり、滑ったり、さらに装置を移動したりすることによって、装置に内蔵されたセンサーが反応します。

するとどうなるかというと、壁面に映し出された【仮想公園】のなかでこの細胞的遊戯装置が現実空間とは異なる動きで変化していきます。

つまり、"だいたい20種類くらいの材料"がアミノ酸、それを組み合わせてつくられた「細胞的遊戯装置」がタンパク質、さらに、来場者である皆さんもタンパク質に見立てて、タンパク質同士がくっ付いたりすることで、【仮想公園】のなかでは新たなタンパク質が形成される、というわけです。

 

何はともあれ、まずは会場で遊んでみてください!

というわけでお次は「細胞的遊戯装置」を少しご紹介しましょう。

入口ブランコ

見ての通りの「ブランコ」です。が、身近でブランコをする機会も街中ではなかなか無いと思います。からだの感覚を開いて、是非ひと漕ぎしてみてください。いつもと違った身体感覚を思い出せます。

シーソー

不思議な形をしていますが、「シーソー」です。両端の下に付いている筒は柔らかい素材で出来ているので、体重を掛けるとかなり弾んで、すごい浮遊感です。バウンドのさせかたによってはかなり激しいシーソーになるので注意です! 日常生活ではシーソー的な身体感覚もあまり経験しないですよね。

その他にも、動く平均台やジャングルジムなど、なかなかスリリングな装置が盛りだくさんです。
(安全に注意しながら遊んでくださいね)

サーチプロジェクトvol.6オープン03 サーチプロジェクトvol.6オープン04

一方、壁面に投影されている【仮想公園】はどんな感じでしょう?

映像の中には、会場内の「細胞的遊戯装置」が漂っています。そのなかを歩き続ける一人のおじいさん。会場にある「細胞的遊戯装置」の動きに反応して、この【仮想公園】はダイナミックに変化していくわけですが、これがどのように変化し、そしておじいさんは一体どうなるのか!? それは会場に来られた際のお楽しみとさせていただきます。

サーチプロジェクトvol.6オープン06

そんな仮想空間に入り込む体験ができるのが"VRブランコ"です!

ヴァーチャルリアリティのヘッドセットを付けてブランコに乗るという、なんとも浮遊感あふれる装置です。会期初日から大人気です。
(体質等によっては体験していただけない場合がありますので、体験前に会場の注意書きをご確認ください)

サーチプロジェクトvol.6オープン05

先にも書いたように、これらの「細胞的遊戯装置」は、それぞれがアミノ酸でできた「たんぱく質」をイメージしていますが、体のなかにはタンパク質になる前のアミノ酸も浮遊しています。

というわけで、会場の片隅には資材(=アミノ酸)がプールされているところも。

アミノ酸プール

この「アミノ酸」を原料に、6月25日までの会期中にたんぱく質の「装置」が更に増える、かも???

自分という意識やからだの感覚と向き合う本展。一度ならず何度でも、この「体内公園」に遊びに来てください!

※お怪我だけなさらぬよう!動きやすい服装でお越しいただくことをおすすめします!

   


今週末4月2日(日)にはプロジェクトメンバーを迎えてのオープニングトークを開催します。こちらも必聴です!
ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト
オープニングトーク「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」

日時:4月2日(日)16:00ー18:00
定員:50名程度(当日先着順・入退場自由)
ゲスト:吉森保(大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授)、dot architects(建築ユニット)、やんツー(アーティスト)
カフェマスター:木ノ下智恵子、久保田テツ、塚原悠也(アートエリアB1運営委員)

「見えない世界の現し方」(五十嵐大介さんをお迎えして)

 2017.3.20(B1事務局 スタッフ 菊池)

展覧会「ストラクチャーの冒険」最終日の前日、1月21日(土)に、出展作家の一人である漫画家の五十嵐大介さんをゲストにお迎えして、トークプログラム「見える世界と見えない世界を描く/漫画家・五十嵐大介」を開催しました。今回は、進行役として京都マンガミュージアムの研究員である伊藤遊さんにもお越し頂き、五十嵐さんの作品の魅力に迫りました。

「魔女」紹介

五十嵐さんは、緻密な描写と独特の世界観で、自然と人間の繋がり、神話や伝承の世界、生態系や生命のなりたちを描き出す漫画家として知られています。今回の鉄道芸術祭では、五十嵐さんの代表作の一つである短編集『魔女』(小学館)などの原画をもとにしたインスタレーションにより空間を構築しました。

五十嵐さんの代表作には、
魔女という一貫したテーマに独自の視点を加えて描かれた短編集『魔女』、
海と港町と水族館を舞台に、宇宙と生命の成り立ちに迫る長編作品『海獣の子供』、
五十嵐さんご自身の自給自足の経験をもとに描かれ、2014〜2015年に映画化された『リトル・フォレスト』などがあります。

今回のトークでは、それぞれの作品のルーツを紐解きながら、展覧会のテーマである「ストラクチャー」(文明や歴史を内包する世界の構造)に対する、五十嵐さんの視点や考えをお伺いしました。

 展覧会使用コマ

五十嵐さんの作品に共通する魅力の一つとして、非常に緻密に描かれる風景・景色がありますが、それらの風景や景色のほとんどは、実際に五十嵐さんが見てきた景色が多いそうです。

五十嵐さんにとって、旅先での風景のスケッチは、初めて行った場所や空間と仲良くなる為の行為だと言います。

もともとは、周りの生き物を観察したり、好きな歌を口ずさんだりすることで、その場所と徐々に馴染んでいく感覚があったそうですが、次第にその詩や言葉が自分のもので無いことが気になりはじめます。そして、自分なりの手法で場所へアプローチすることを考えた結果、スケッチという手法に行き着きました。
スケッチを通して、初めて会った場所と仲良くなり、描き終わった時にはその場所と繋がる感じがして、顔を上げると景色が違って見えるそうです。

「自分と空間を隔てている距離感がなくなり、"自分がちゃんとそこにいる感じ"」

その行為は、漫画のためのメモというわけでも、練習というわけでもなく、五十嵐さん曰く、その場所に「あいさつ」をする行為なのです。 

意外にも、漫画という平面的な表現に対して、空間の捉え方がすごく身体的で驚きました。

 スケッチ

今回の展覧会「ストラクチャーの冒険」では、社会や経済、そして生命のシステムを構成する既成概念や既知のストラクチャー(様々な構造や制度、仕組みなど)をアーティストが独自の視点で捉え直し、創造的にそれらを超えていく、ということが狙いの一つです。

では、五十嵐さんは、どんなふうに世界を捉えているのでしょうか。

以前、沖縄の取材から帰ってきた五十嵐さんは、飛行機から見た都市の姿が、地面にくっついている瘡蓋のように見えたと言います。何か下にあるんじゃないか、うごめいているんじゃないかと。 

また、五十嵐さんは「絵を描く」ということは「見る」ことが前提であり、「描く」より「見る」ことの方が大事で、大きな要素を占めていると言います。その結果として、こうした作品が出力されていっている、と。

おそらくこの「見る」という行為の背景には、表面的な情報をただ受け取るだけではなく、どのように見るのか、何を見るのか、そして何が見えていないのか、ということが非常に大事なこととしてあると思います。

五十嵐さんの作品をみていると、現代の日本に生きる私たちにとって、とても見え辛くなっている世界があることを再認識します。五十嵐さんにしか見えない、感じられないものを丁寧に漫画へと変換して、もう一つの世界のストラクチャーを示して下さっているのだと思いました。

 海獣の子供

 五十嵐さん

「圧倒的物質で人と社会を揺さぶる/現代美術家・榎忠」(榎忠さんをお迎えして)

12月17日、鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」参加アーティストのお一人、現代美術家の榎忠さんをお迎えして、トークイベントを開催しました。

ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭
「圧倒的物質で人と社会を揺さぶる/現代美術家・榎忠」

榎忠さんは、「グループZERO」として、神戸の市街を都市劇場に見立て集団でハプニングを繰り広げたり、大阪万博のシンボルマークを体に焼き付けた 「裸のハプニング」や、「ハンガリー国へハンガリで行く」など独特のパフォーマンス活動を展開する他、 大砲や銃、原子爆弾、ゴミなど、身の回りに潜む危機や不穏因子に着目し、鉄の廃材や金属部品を用いた全長数十メートル、 総重量数十トンといった超スケールの作品でも知られる現代美術家です。
今回のトークでは、見るものを圧倒する力強い作品を生み出し続ける榎さんの創作活動について、また、その作品の背景に見えてくる人類の文明の歴史や、世界の様々な構造(ストラクチャー)などについて、お話いただきました。

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超満員で立ち見が出る中、トークが始まります。
榎さんは、20代の頃には絵画制作をされていましたが、絵だけではご自身の考えを表現しきれないと感じ、体を使ったパフォーマンスもされるようになりました。 写真に写っているスライドは1970年の「裸のハプニング」。これは、日光でご自身の腹部に大阪万博のシンボルマークである桜型を焼き付けて行われたパフォーマンスの写真です。
そして、"自分の生活は自分でまもる"という榎さんの信念を表した「LSDF(Life Self Defense Force)」、「ハンガリー国へハンガリ(半刈り)で行く」、榎さんの願望から生まれた"ローズねえさん"が営む幻のバー「Bar Rose Chu」、神戸ポートアイランド博覧会で発表された巨大な「スペースロブスター」等々、歴代の代表作の制作経緯をユーモアを交えてお話いただきました。

超スケールの作品の印象からか、「『大きな人』とイメージをされがち」と笑いながら語る榎さんは、神戸で旋盤工として勤めながらアーティスト活動をされてきました。
榎さんの作品は、どれも廃材にアクセスできる特殊な環境にいたからこそ生まれた問題意識が元になっているといえます。

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榎忠さんトーク.JPG

「いつまでも繰り返される戦争や紛争。開発する一方で、後の処理を考えない人間。
新聞やニュースで得られる情報はごく一部で、正しいのかも定かではない。だから想像し、表現する。
戦いが起こらないようにアートで戦っている」。 
そう語る榎さんは、作品を発表する場として、より社会や人々の日常に近い場所を選ばれます。「美術館など制約がある場所ではなく、好きな場所でやりたい」という言葉通り、毎回時間をかけて展示のための場所を探し、交渉し、困難な搬入や設営を経て、作品が生み出されていきます。そしてそのなかでは、様々な人との出会いも重ねられていきます。
そうして、いろいろな人々と関わり合いながら生み出される作品からは、そこに関わった人たちの存在を感じることができ、だからこそ、 対峙する鑑賞者を圧倒する力強さがあると感じました。

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トークの最後は、会場のみなさんからの質問にお答えいただきました。
作品にある種の宗教性・精神性みたいなものを感じるが、意図されているか。という質問に対して、榎さんご自身は「意識していないが、見る側の意識がそこにあるからそう感じるのではないか。」とのお答えでした。
また、あえて危険なもの、重いものなど、ヘビーなマイナスの印象がある素材・テーマを扱われることが多いことについて。という質問には「見る人が、見る人の問題として考えて欲しい。精神性などを考えて制作することは構わないが、あくまで語るのは作品」と表現者としての強い覚悟を語られました。
働きながら制作されてきた榎さんにとって、労働は食べるため、生きていくために必要な当たり前のことで、食べていくために芸術をしているのではありません。

今回のトークでは、常に社会に対する問題意識を持ち続け、表現し続ける作家としての榎忠さんの強さを伺うことができました。

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鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」では、榎さんの作品は《LSDF(Life Self Defense Force)》と《薬莢 Cartridge》を実物で、《スペースロブスター P81》と《GUILLOTINE1259〈ギロチンシャー〉》は展示当時の写真を拡大出力し展示、さらに1972年に行われたグループZEROとして行ったハプニングの映像、「ハンガリー国へハンガリで行く」などの過去作の記録映像を展示場入口で上映しています。

また、1月9日には展示している《LSDF(Life Self Defense Force)》を使っての「成人の日」祝砲パフォーマンスを開催します。

ぜひ、会場で榎忠さんの力強い作品に触れてください。

「芸術実行犯 Chim↑Pomの超戦」(卯城竜太さんをお迎えして)

 2016.12.17(B1事務局 サポートスタッフ大槻)

12月10日、鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」関連プログラムとして、アーティスト集団Chim↑Pom(チンポム)の卯城竜太さんをゲストにお迎えしたトークイベントを開催しました。

 ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭 
「芸術実行犯 Chim↑Pomの超戦」

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Chim↑Pomは、現代社会に全力で介入し、強い社会的メッセージを持つ作品を発表し続けている6人組のアーティスト集団です。アートを武器として社会の"見えない構造"に挑み、ときに超越しながら、世の中に物議をかもすアクションを次々と実行されています。そこで今回のトークでは「芸術実行犯Chim↑Pomの超戦」と題し、そんなChim↑Pom の活動における"ストラクチャーの冒険"について、今年の10月に東京の新宿歌舞伎町で開催した個展「"また明日も観てくれるかな?〜So see you again tomorrow, too?」に関するお話を中心にお聞きしました。

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今年で結成11年目であるChim↑Pomは、国内や海外で様々なプロジェクトを展開してこられていますが、デビュー当時からずっと東京を活動のベースとしており、東京の街中で数多くのアクションを起こされています。トークではそれらのうち、野良ネズミやカラスといった「都市における野生」への関心から生まれた《スーパー☆ラット》や《BLACK OF DEATH》、「大量生産・大量消費」への反発心を逆手にとって挑んだ渋谷パルコでの展示、「愛が目的のデモ」として新宿の路上で敢行したメンバーのエリィさんの結婚式《LOVE IS OVER》など、代表的な作品の数々をご紹介いただきました。一見すると悪ふざけのようにも見えるのですが、そこには必ず東京という都市を生き抜く若者としての鋭い感性と行動力に裏打ちされた強度があり、現代社会の在り方をあぶり出し問い直すアートの力をヒリヒリと備えているので爽快です。

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そんな東京の申し子とも言えるChim↑Pomが、"東京"について改めて考え直すことから始動した新たなプロジェクトの第一弾が、新宿歌舞伎町にある解体予定のビルを舞台とした展覧会「"また明日も観てくれるかな?〜So see you again tomorrow, too?」です。

歌舞伎町は、戦後なにもない焼け野原となったところから、一部の地主たちが様々な理想を掲げながら構想し、誕生した街です。今回会場とされたビルは、その地主たちから発足した「歌舞伎町振興組合」の拠点となってきた場所です。ビルが建てられた時期を遡ると、なんと前回の東京オリンピック開催年である1964年。そして現在、ビルは2020年のオリンピックにむけて、再び「建てこわし・建てなおし」されようとしています。
4年後のオリンピックを大義名分とした「スクラップアンドビルド」は、歌舞伎町のみならず、現在東京のあちこちではじまっています。日本は途上国から先進国へと発展し、状況も価値観もがらりと変わっているにもかかわらず、オリンピックに際し、かつてと全く同じような発想でまちづくりがされようとしていることへの違和感。今回の展覧会は、東京で日本人が繰り返すこういった「未来の描き方」を問い直すものとして企画されたそうです。

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トークでは、たくさんの写真をお見せいただきながら、ビルの4階から地下に至る各階の展示の様子をご紹介いただきました。ビルの持つ歴史や特性に深く迫り全力でインスパイアされながら、Chim↑Pomのこれまでを集大成して作り上げられた作品のお話はどれも面白くて、展示空間をその場で体験できなかったことが悔やまれました。そしてなんと、会期が終了した現在、ビルと一緒に展示作品も「全壊」させられています。なぜなら、作品をビルごと「スクラップ」し、その残骸を再び「ビルド」して展示することこそ、「スクラップアンドビルド」がテーマである今回のプロジェクトのフレーミングだからです。「まっさらなところで呆然としてから考えることが重要だ」と語る卯城さんからは、アーティストとして"ゼロ地点"に立ち続けようとする意欲と気概が伝わってきました。
会期中は展示だけでなく、全壊するこの場所を無形の"記憶"として残していくために、トークやライブといったイベントも数多く催したそうで、それらも大変濃度の高いものだったよう。「安全だけど安心でなくていい」という寛容さがある歌舞伎町は、街のど真ん中の会場でどんなに過激に騒いでも、自由に放ったらかしてくれたそうです。

 

トークの最後に、卯城さんが重要なこととして強調されたのは、今回の展覧会に関しては展示作りや運営、資金面など、全てにおいてChim↑Pomが自分たちの手で行ったという点です。それは、最近特に政治的な規制や検閲が顕著になり、美術館や芸術祭で出来ることが限られてきたことに理由があります。そういったしがらみに翻弄されるよりも、何か他の手を見つけて自分たちのやりたいことを実践していく挑戦として、インディペンデントで展覧会を開催することにこだわったそうです。その挑戦は、見えない社会のストラクチャーを超えていく試みであり、ストラクチャーを自らの目で見ようとする試みでもあるように思います。
すでに出来上がっている仕組みに身を任せていると、いろいろなことが見えないままに運び、いつの間にか大きな力に鈍感になってしまうことは、日常生活でも大なり小なり実感することです。Chim↑Pomや今回の鉄道芸術祭の出品作家の皆さんが、アートの力で見えないストラクチャーを冒険する姿に学びながら、私たちも常にそこへと意識を向け続けねばならないなと改めて危機感を持ちました。

鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」は、会期残すところひと月ほど。皆さんも是非、見えないストラクチャーに思いを馳せにいらしてください。お待ちしております。

電車公演「クラブ電車〜ストラクチャーの冒険〜」を開催しました!

12月4日(日)に電車公演「クラブ電車〜ストラクチャーの冒険〜」を開催しました。
あいにくの雨にも関わらず、今年も満員御礼、たくさんの方にご乗車いただき、ありがとうございました。

走行する貸切電車の中で行う電車公演。
今回は駅から駅へと移動する、この日限りの「クラブ」を生み出しました。

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「クラブ」というと夜の地下スペースなどでのイベントのイメージがありますが、
電車公演「クラブ電車」は、日中に京阪沿線の車窓風景を楽しみながら、という駅から駅へと移動する「クラブ」となりました。
今回の公演は、ラッパーの環ROYさん、同じくラッパーで、環ROYさんとのユニット「KAKATO」としても活躍されている鎮座DOPENESSさん、そして島地保武×環ROYとして愛知県芸術劇場で舞台作品「ありか」を発表された、ダンサーの島地保武さん、PA/音響の岡直人さんによる特別編成の「環ROY×鎮座DOPENESS×島地保武×岡直人」
日常生活にある五感をテーマに、絵画、彫刻、映像、サウンドを自在にリミックスし作品を編み上げるマルチアーティストの和泉希洋志さん。
イラストレーターとして雑誌やweb、広告媒体、CDアルバムジャケット等音楽関係で活動され、2014年からファッションブランド「Né-net」とコラボレーションも展開されている鈴木裕之さん。
ゴミや廃材などの収拾物、印刷物や写真など既存のモチーフに描くドローイング作品やインスタレーション、グラフィティを用いた作品などを制作され、アーティストユニットcontact Gonzoとしても活動されているNAZEさん。
というバラエティ豊かな出演者を迎えました。
加えて、DJタイムの選曲者として、鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」展の参加アーティストである五十嵐大介さん、インビジブル・デザインズ・ラボさん、榎忠さんにもご参加いただきました。


当日の様子を少し、ご紹介します。

受付を済まされた参加者の皆さんは特別切符を手に、中之島駅の3番のりばから「クラブ電車」にご乗車いただきます。
会場となる貸切電車は、大阪側車両からA・B・Cと名付けた3車両。ご家族連れでゆったりと座るも良し、混み合うアーティストの近くでパフォーマンスを楽しむも良し。3車両の中を参加者は自由に行き来していただきます。


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車掌さんからのアナウンスがあると扉が閉まり、いよいよ「クラブ電車」が走り出しました。
発車までの五十嵐さん選曲によるDJから一転、B車両で行われている和泉さんのライブ音がスピーカーを通して各車両内に響き渡り、車両内は一気に非日常的な雰囲気に変わります。

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3車両とも扉横のポスター掲示枠には広告ではなく、鈴木さんとNAZEさんの作品が掲示されており、吊り広告スペースには白紙が吊られています。

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いつもと少し、雰囲気の違う車両内。
画板を持った鈴木さんとNAZEさんたちは、鈴木さんがA→B→C車両(大阪側→京都側)へと、NAZEさんがC→B→A車両(京都側→大阪側)へと、ライブペイントをしながら進みます。
ペイントされた紙は、次々と吊り広告スペースに吊られていきます。

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鈴木さんとNé-netのコラボアイテムで全身コーディネイトされた鈴木さんファンの方々は、吊り広告をバックに記念撮影をされていました。

樟葉駅で停車すると、和泉さんのライブは終わり、インビジブル・デザインズ・ラボさんと榎さんの選曲リストによる、再びのDJタイムに。
樟葉駅周辺の緑豊かな景色を眺めつつ「汽車ぽっぽ」やHajime Tachibanaの「Bambi」などの曲がつながります。

電車は樟葉駅で折り返し、再び大阪方面へ走り出します。

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帰路の車中では、環ROY×鎮座DOPENESS×島地保武×岡直人によるパフォーマンスがスタート
環ROYさんと鎮座DOPENESSさんが乗客の間を行き来しながら、ラップを繰り広げ、それに呼応するように踊る島地保武さん。

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ラップ、ダンスと共に鈴木さん・NAZEさんによるライブペインティングも進み、車内を盛り上げていきます。

この日、この場限りの「クラブ電車」は京橋駅を通過し、地下へ潜り、終着のなにわ橋駅へ到着しました。
それぞれのパフォーマンスに目を奪われているうちにあっという間に終演を迎えた電車公演。
いつもの京阪電車の車内がアーティストの力で非日常空間に変えられ、とても印象的な小旅行でした。

鉄道芸術祭vol.6オープニングトーク!「見えない音とかたちのないアイデアを構築する」インビジブル・デザインズ・ラボ松尾さんをお迎えして

 2016.11.16(B1事務局 サポートスタッフ大槻)

鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」がいよいよ幕開けとなり、展覧会初日11月12日、参加アーティストの一組であるインビジブル・デザインズ・ラボの代表、松尾謙二郎さんをお迎えしてトークイベントを開催しました。

オープニングトーク.jpg 松尾謙二郎さん.jpg

 

インビジブル・デザインズ・ラボは、「音」という見えないメッセージと「アイデア」という見えないデザインを「見える」ようにしていくことを目標に、CM制作やアート作品の発表など多方面で活動されている音楽クリエイティブチームです。本展には新作として、目に見えないシステムによってピアノと木琴が音楽を奏でる音楽作品「Do you feel "THE RED" just like "THE RED" I feel?」を出品してくださっています。

「生きていくためには、食わねばならん」。そんな一言から始まり、松尾さんはまず、ご自身のご活動の経緯についてお話してくださりました。中学時代から、すでに音楽で生活していくことに危機感をお持ちだったという松尾さん。音楽で、クリエイティブで、食べていくのは難しい。そのためには、何か他人と違うことをしなければならない。広告業界に仕事を求め、音や音楽に対して他の人とは異なる視点を持って制作活動をしてきたのも、「アーティストとして生きて行く」ことに現実的な意識を持ち、戦略的に臨む意識があったからだそうです。

一人ではできなくても、できる人とコラボレーションすれば、いろんなことができる。"チーム"でものを作るという活動形態は、広告づくりの手法から学び得たものだそうです。インビジブル・デザインズ・ラボの現在のあり方は、広告の仕事と切り離して語れないもののようでした。

広告の仕事を資金源にしてクリエイターとしての技術や発想を更新していくような、"クリエイトのループ"の中で制作をしていくというのも、松尾さんが大切にされていることの一つです。先の「食べていくこと」の問題にも重ねて、現代におけるアーティストの生き方・生き延び方を考える上で、大変参考になる具体例だと感じられました。

トークでは、2011年にNTTドコモのCMとして制作され、大きな話題となった《森の木琴》を始め、アルコール飲料ブランドZIMAの依頼で制作されたロボットバンド《Z-MACHINS》にまつわるエピソードや、様々なCM制作の裏話について、写真や動画でたっぷりとご紹介いただきました。インビジブル・デザインズ・ラボの皆さんが、クライアントの依頼を見事にこなし、仕事の幅を広げていく様を追体験するようで、大変刺激的な時間となりました。

 

また、松尾さんがインビジブル・デザインズ・ラボのコンセプトを"「音」という見えないメッセージと「アイデア」という見えないデザインを「見える」ようにしていくこと"として活動を始められたきっかけの多くは、29歳の時のイギリス留学の経験にあったそうです。

現地では音楽の作り手よりも、モノを作るアーティストやプロダクトデザイナーと親交を持っていたという松尾さんは、友人たちの影響で音についても"機能性"や"デザイン性"に関心を持つようになりました。そして、「単に音楽を作るのではなく、音の機能や、音のデザインといったことに着目して制作をしていきたい」と考えはじめたそうです。

本展の出品作「Do you feel "THE RED" just like "THE RED" I feel?」において、松尾さんの中でのテーマの一つとなっている"コミュニケーション"も、言葉の通じないイギリスでの体験から生まれたものだそうです。言葉が通じなくてもコミュニケーションは成立する、むしろ本質的に分かりきらないものである。だから、面白い。本作においては、そんな曖昧なものとしてのコミュニケーションを、言葉ではなく音楽によって試みたいという意図が含まれています。

 

最後に場所を展示会場内へと移し、松尾さんに出品作のパフォーマンスをしていただきました。「楽器ごと作った曲のつもりだ」という今作は、ピアノの音が解析されて指令が飛び、三つの木琴が動き出すことでアドリブ的に音楽が奏でられる楽器群です。パフォーマンスでは、松尾さんが「印象」によって演奏された即興的なピアノのメロディーと、木琴の素朴でリズミカルな音色が呼応し合い、美しい音楽が生まれていました。

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その後作品を囲んで、制作にあたったインビジブル・デザインズ・ラボの他のメンバーの方々の紹介や作品解説、来場者の方々の演奏体験、質疑応答を経て、トークは終了となりました。

メンバー紹介.jpg 質疑応答.jpg

 

アーティストとしていかに生きていくか。それを考えるためには、社会の見えない構造に目を向けて、自らの身の置き場を探っていく必要があります。

音と人間のあいだにある"よくわからない仕組み"に関心を持ち、そこで作品をつくっていこうとする試みも、見えない構造への挑戦です。

今回のトークをお聴きして、松尾さん、そしてインビジブル・デザインズ・ラボの挑戦が、まさに本展のテーマである「ストラクチャーの冒険」そのものであることに改めて気づかされました。

 

もしもインビジブル・デザインズ・ラボの作品や活動に少しでもご興味をお持ちになりましたら、新作である「Do you feel "THE RED" just like "THE RED" I feel?」を、ぜひ本展覧会の会場で体験なさってみてください。音楽を奏でる、見えない仕組みの存在を感じることで、今まで見えていた世界にも新鮮な気づきが生まれてくるかもしれません。

 

ご来場をお待ちしております。

ブリッジシアター ダンスボックス アーカイブプロジェクト「Nước biển / sea water」

アートエリアB1では、10月12日〜29日にNPOダンスボックスの企画による展覧会「『Nước biển / sea water』特別展示上映」を開催しました。

アートエリアB1を運営する団体の一つであるNPOダンスボックスは、1996年に大阪で始動し、現在は神戸・新長田に拠点を移して、今年20周年を迎えます。

今回の企画展は、ダンスボックスの20年の軌跡を整理・公開する「アーカイブ・プロジェクト」のプレイベントとして開催。本展では、ダンスボックスディレクターでありcontact Gonzo主宰の塚原悠也のディレクションによる舞台作品「Nước biển / sea water」 (作・出演/ジュン・グエン=ハツシバ、垣尾優、松本雄吉)を特別公開しました。(Nước biểnはヌックビエンと読みます)

会場では、神戸と東京の公演の記録映像を上映するとともに、松本雄吉さんが読み上げられたテキスト、衣装、小道具なども合わせて展示。

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海の水と、身体のなかに存在する水分のあり方、循環する水のあり方と仏教的な生死感を頼りに制作が進められた本作の公演では、体内にある血液の量に近い30リットルの海水を、出演者が汲みに行くところから舞台が始まります。

今回の展覧会場では、同じく30リットルの水が入れられたタライ、松本雄吉さんが舞台で読み上げられたテキスト、小道具や衣装なども展示され、それらを介して作品の断片を垣間見る空間となりました。さらに、本展では、Skypeでの打ち合わせの音声記録も展示されました。そのなかには、ふっとダンスが立ち上がる瞬間があり、本番の映像だけでは触れることのできない体験となりました。

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最終日に開催された、クロージングイベントでは、「アーカイブ」をどう捉えるか、ということをテーマに、共同製作者の垣尾優さんと、舞台芸術批評にも携わる高嶋慈さんを迎え、作品のディレクションを務めた塚原悠也と、NPO法人記録と表現とメディアのための組織理事でもある久保田テツ、 ダンスボックスの20年間の活動に携わる文が対話を繰り広げました。

アーカイブをする側の意識とされる側の意識、技術の状況、記録から公開までの時間間隔、そして公開する側の意図によって、アーカイブのあり方は多様に変化し続けます。

個人的な思い出として記録された映像も、記録されてから長い時間が経てば、それは"人類の記録"にもなり得ます。

本企画を皮切りに始まる「ダンスボックス アーカイブプロジェクト」では、過去20年分のアーカイブを公開する予定です。そこでは、生の舞台とは異なる身体の魂が見えるかもしれません。そして、アーカイブ展が作品としてアーカイブの対象となり、それがまたどこかで異なる形で公開され、アーカイブされる......。そうしてどんどん拡張し、変幻自在にかたちを変えていくのかもしれません。

2月にアートエリアB1で開催するダンスボックス アーカイブ展も是非ご期待ください!

「写真家/畠山直哉との対話」

6月11日(土)、現在開催中の企画展「サーチプロジェクトvol.5」関連プログラムとして、写真家の畠山直哉さんをお迎えして、トークイベントを開催しました。

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畠山さんの本展への出展作品《陸前高田》は、会場の入口の正面にあります。たくさんの方が、立ち止まったりベンチに腰掛けて、静かにその写真に見入っておられます。

畠山さんは、ご自身がこの陸前高田のご出身です。ご実家も被災して家の土台だけが残っていたそうですが、それも壊して別の土地へ移転しなければいけなくなった、と土台だけになったご実家の写真を映しながらお話をしてくださいました。

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出展作品《陸前高田》の写真には、畠山さんのご意向で、撮影された日付が一枚一枚それぞれに入っています。

畠山さんは、「当初は日付の重要性を感じていなかった」とおっしゃいます。

けれど2014年、この陸前高田の写真を本にすることになったとき。一連の写真をざっと見直して、これらの写真には日付が必要だ、と思われたのだそうです。

同時期に撮影された写真でも、一方では瓦礫の片付けが進み高台造成がはじまっている写真もあれば、もう一方では手付かずで物が散乱したままの校舎内部を写した写真もあります。畠山さんはこういった手付かずの状況を撮った写真も見せたいと思われました。でも、整備の進んだ状況の写真の後に未整備の写真が出てくると、見る人が前後関係がわからなくなって混乱してしまう。

それを避けるために、写真集のページには全て日付を入れたのだそうです。

 

今回出展されている200点のスライドショーの写真に日付を入れたのもそのためです。と、畠山さんはおっしゃいます。「あぁ、5年たってもあまり変わっていないんだな」等、写真を見た人がそれぞれに考える助けとしての日付なのだと。

そのお話を伺いながら、展覧会へご来場くださった方々が、畠山さんの作品の前で、写真と日付を静かにじっとご覧になっている後ろ姿を思い返していました。畠山さんの作品を見ながら、来場されたおひとりおひとりが様々なことを考えられています。そしてそこから、一緒に来られた方々や会場スタッフとの対話が日々生まれています。

  

そして畠山さんは、「自分は災害写真家ではない」とおっしゃいます。"被災状況を伝えたい"という他の人とは違って、まさにこの場所で生まれ育った、その自分の想い出やある種の嘆きと共に撮っているのだと。

そんな中、畠山さんの事情を知らない人が写真を見て、「この人はこの土地に何か関わりのある人だ」と会いに来てくれたことがあったそうです。

言語情報を越えて、写真から多くのことを受け取ってくれたことが嬉しかった。と、畠山さんは笑顔でおっしゃっていました。

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会場からも、たくさんの質問が挙がりました。その中のひとつに、「畠山さんにとっての風景とは?」という質問がありました。

畠山さんは、風景とは元々中国の言葉で「風光」とほぼ同義語であるとおっしゃいます。草原にぼんやりと立っていて、ふと風が吹いて草がなびき、太陽の光を受けてキラキラと反射する。そんな今、ここのあなたの心を問題にした言葉だと。

けれどヨーロッパ語的な「ランドスケープ」や「ペイサージュ」は、土地や国、領土の眺め。つまり出来事から距離をとって俯瞰して観察する態度のことなのだと話を続けられます。そして畠山さんは、ご自身がヨーロッパの風景芸術の歴史に親しまれているので、どちらかいうとランドスケープの感覚で風景を理解されているのだそうです。

でも、他の日本の方はもう少し心や心理に近い風景観を持っている可能性がある。そう言いながら、「山」を例に出してさらにお話を深めてくださいました。

山は物体であり、岩が盛り上がっているだけ。でもそこに物体以上の意味、ある種の気持ちを込めて山と呼ぶのだと畠山さんはおっしゃいます。そしてそのように、人間の精神と物質世界がまじわるところにあるのが風景なのだと。

ランドスケープの西洋にあっても、自然の中に身をおいた人間が何かを感じるのは世界共通。けれどその感じ方には地域性時代性がある。そしてそれを考えるためには、「風景芸術」はいい入口になるのだそうです。

最後に、「陸前高田の『風景』は、これらの話から推測してほしい」そうおっしゃって、畠山さんはお話を締めくくられました。

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畠山さんのお話から、充実した対話が繰り広げられました。

 

今後もサーチプロジェクト関連プログラムは続きます。

皆さんで対話を行う機会を共有してみませんか?

会場へのご来訪をお待ちしております。

薄れていく記憶やバラバラになっていく個々人をつなぐアーカイブ(せんだいメディアテーク学芸員・清水チナツさんをお迎えして)

5月27日、「記録と想起/災害とアーカイブ」というテーマで、せんだいメディアテーク学芸員の清水チナツさんをお招きして、対話プログラムを開催しました。
「カフェマスターの久保田テツさん、参加者のみなさんを交え、紡いでいけたら」とおっしゃる清水さんのあいさつから、プログラムはスタートしました。

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せんだいメディアデークは「美術や映像文化の活動拠点であると同時に、すべての人がそれらを使いこなして自由に情報のやりとりを行うこと」を支援する公共施設です。せんだいメディアテークでは、市民協働を掲げ、市民が自らスタジオ機能を持つメディアテークを利用し、たとえば、昭和の街の風景が記録された8m/mフィルムなどを収集し、デジタル変換し、それらの成果がメディアテークに保管、ライブラリーに公開され、また新たな市民の活動に利用されていくことなどに主眼が置かれています。
東日本大震災後、部分的に再開する際にもこのモデルを活用し、市民協働での「3がつ11にちをわすれないためにセンター(わすれン!)」プロジェクトがスタートしました。わすれン!には、実際にたくさんの方々が参加され、清水さんはこの方向で進んで行くことに見通しを持ったそうです。

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市民が主体となっていく中でいろいろな課題が現れました。
たとえば、その経験のなさゆえ、職業としてカメラマンをしている人々に交じって記録をすることに委縮してしまったり、あるいは、記録はしたいがそもそも手段を持たなかったり。こういった場合には、わすれン!のロゴが入ったプレスキットを渡したり、ビデオカメラの基本的な操作を教えるワークショップなどを開くことで、「記録活動」へのアクセスを図ったそうです。
また、集まった映像の公開も早い段階から着手し、来館者からアーカイブを見たいという声も増え、アーカイブの一部を英訳したものも公開したといいます。

こういった取り組みは、時間の経過とともに当時の経験が語りづらくなっていくことへの抑止になり得ます。また、受動的に映像を浴びるのではなく、自らが能動的に「まなざす(眼差しをもつ)」主体へ回帰を促すという点でとても重要です。

また、活動は「記録」だけにとどまらず「てつがくカフェ」など、さまざまな立場を超えた対話の形もとられました。ここでは、「震災を語ることへの負い目」「震災の当時者とは誰か」「故郷(ふるさと)を失う?」などの問いから対話が進められました。
5年経った今でも、原発事故により広域避難を強いられている方がいて、その課題に向き合うために、一年目の対話「〈ふるさと〉を失う?」を文字起こして冊子にまとめ、当時の感覚を多くの人に呼び戻した上で対話するてつがくカフェも予定されています。

こういった、活動のなかで清水さんは人々の力を実感したと言います。
「こういった活動から寄せられる記録はマスメディアの映像や写真と比べ、一見とても小さく、個人的な記録のようにも思えます。ですが、個人の視点を手放さない記録は、見るひとに「そこに自分たちのことが映っている」という実感を生みます。そういった記録が公の場へ持ち込まれ、多数の個人の目に触れる機会があると、それを見たひとのなかに埋もれていた感情や記憶を呼び覚ます装置になっていく。」

また「誤解を恐れずに言うならば」、と前置きした後に清水さんは以下のように続けました。

「震災はとても辛いことや、悲しいことがたくさん起こりました。けれど、同じくらいのユーモアもあったと言う方もいます。過酷な日々が続くなか、それを跳ね飛ばすように生まれたユーモアはつらい状況を乗り切るうえでは大事なことだったと感じました。」
アーカイブは悲しみや悲惨さに焦点が当たりがちですが、そうなると、向き合うこともつらくなり、距離をとることでしか、守れなくなってしまう。そうならないためにも、今後はその裏に流れていたユーモア、力強さにも焦点をあてていきたい。そう切々と語る清水さんの姿が印象的でした。

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会場を交えたトークに移ると、「当事者」と「非当事者」を巡って問いかけがありました。
震災後、自分よりも被害を受けた人々への気配りがあるがゆえに、語ることを躊躇(ためら)われる方も多くいらっしゃったと言います。しかし、語りつぐことが困難になると、今後重要になってくるであろう共有、蓄積ができなくなってしまいます。
また、「非当事者」でない人間が震災を語ることで、考えや経験が伝えられる一方、また別の意味を帯びてしまうという難しさもあります。 こういった課題には、肯定、否定の二択ではなく、「獲得される当事者性もある」という気づきを得ながら、どう肯定していくのか、どのような向き合い方の可能性があるのかが話し合われました。

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清水さんは、今後の活動について、まず震災アーカイブを震災だけに結晶化する方向ではなく、地域のアーカイブとして統合していく取り組み。そして、被災地の外での発信を挙げられました。もちろん、被災地の外への発信は、受け取り方に差がでてしまうという側面もありますが、同じように災害を経験した土地やそこから歩き出そうとする人々がいる。地域や災害の種類で分類していくことよりも、すこし抽象度をあげて、そこにある困難や課題に対して対話出来る場をつくり、薄れていく記憶やバラバラになっていく個々人をつないでいくことはやはり重要な課題といえます。

当事者・非当事者の二分法を抜けて、私たちはどう考え、どうつながりを構築していったらよいのか。正解のない問いを考えるうえで、とても大切な時間となりました。

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