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「都市の身体を形成する交通インフラー東京資源区からの提言ー」
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.9

 2019.12.20(B1事務局 サポートスタッフ 林)

12月20日に、ラボカフェスペシャルfeaturing 鉄道芸術祭「都市の身体を形成する交通インフラ」が開催されました。

12/20「"都市の身体"を形成する交通インフラ」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者/東京大学大学院情報学環教授)

ゲストは、社会学者で『視覚都市の地政学』(2016)や『都市のドラマトゥルギー』(1987/2008)など、都市に関する著作も多い、吉見俊哉さん(東京大学大学院情報学環教授)。カフェマスターは、木ノ下智恵子さん、久保田テツさん(アートエリアB1運営委員)です。

今年の鉄道芸術祭vol.9のテーマは「都市の身体」です。われわれは「都市」に暮らしながらも「都市」の形成過程や、そこで生まれる身体感覚についてあまり考える機会はありません。今回は、都市が過去から現在までどのように発展し、鉄道などのモビリティがどのようにそのあり方に関係するのかを、「東京文化資源区」という東京の北東部で展開されているプロジェクトに絡めながらお話いただきました。



12/20「"都市の身体"を形成する交通インフラ」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者/東京大学大学院情報学環教授)





《都市の時間軸》

都市における身体感覚を考えるにあたって、まず吉見さんが着目されたのが「時間の体感」すなわち「速さ」です。都市における時間の歴史とは、「速い」ものが推奨され「遅い」ものは淘汰されていく過程だと言えます。そのため、「近代の時間」というものを作るうえで最も重要だったのが鉄道です。鉄道の時刻表の制定は、国土全体に共通する一つの時間軸を生み出しました。
東京では、1964年の東京オリンピック開催により大規模な都市改造がおこなわれた際、首都高速道路、東海道新幹線、地下鉄・東京モノレール、超高層ビルなどが構築されました。これらは「より速く、より高く、より強い」東京を実現するためのものであり、速さこそが絶対的な価値を持っていました。

しかしその一方で、大規模な開発により江戸時代から続く街並みが破壊され、川や堀の上には高速道路がかけられ、運河や路面電車はその役割を失っていきました。吉見さんは、この変化で失われたものたちを問い直し、再評価するのが現代の課題であると言います。実際、2017年には日本橋の首都高速道路地下化の話が出るなど、川辺や水辺を復活させようという動きは、東京でも大阪でも見られるようになっています。

高度経済成長期を通り過ぎた日本は、成熟社会に突入し、低成長が続くと予想されています。再来するはずのない高度経済成長を追い求めるのではなく、低成長のなかでどう豊かさを追求するかが、今後の鍵となります。2020年代の価値があるとすれば、もやは「より速く・より高く・より強く」ではなく「より愉しく・よりしなやかに・より末永く」というのが吉見さんの考えです。ではその新しい価値を実現していくには、どうしたらよいのでしょうか?



12/20「"都市の身体"を形成する交通インフラ」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者/東京大学大学院情報学環教授)



≪東京文化資源区プロジェクト≫

その一つのモデルとなるのが、吉見さんが7、8年前から様々なかたちで携わる「東京文化資源区」というプロジェクトです。「東京文化資源区」は、東京都心北東部の谷根千、根岸から上野、本郷、秋葉原、神田、神保町、湯島に至る地域を指します。半径約1.5Km〜2Kmの地域で、おおよそ中之島の長さを直径とした円ほどの範囲に相当します。この地域には江戸時代からの文化的資産が集中しており、プロジェクトでは、道路や鉄道により分断されてしまった地域同士をつなぐ仕組みを構築しようと、「上野スクエア構想」「本郷のキオクの未来」など、多くの取り組みが同時多発的に展開されています。 その中で吉見さんが注力しているのは「トーキョートラムタウン構想」です。

「トーキョートラムタウン構想」とは、東京のJR山手線と都営大江戸線の2大環状線に次ぐ、第3の環状線として路面電車を復活させようというプロジェクトです。 なぜ電車でもなく地下鉄でもなく、路面電車(トラム)なのか。

その理由は、路面電車であれば、人が街とのインタラクションを維持しながら移動することができる点にあるといいます。山手線の電車は時速約40~50Kmですが、トラムは約13~15Km。これはちょうど自転車で走るぐらいの速度であり、歩行者と同じ空間を共有できる速度です。 地下鉄の場合、もちろん移動はできますが、地上の街の風景を楽しむことはできません。また地上でも電車では速度が速く、駅間の距離があるため、窓から素敵なレストランやカフェやお店を見つけても、じゃあ次の駅で降りて歩いて戻ろうといったことはなかなか難しい。また、交通工学の専門家によると、「乗り物の適正な窓の大きさと速度は反比例する」そうです。つまり、速い乗り物の窓が大きいと、乗っている人に不安を与える結果になります。路面電車ぐらいの速度ならどれだけ窓が大きくても不安感を与えることはないため、乗客は思いきり周囲とのインタラクションを楽しめます。 そして路面電車が通ると、街としても常に見られているので綺麗になっていきます。つまり、路面電車は街を活性化していく一種のメディアになれると、吉見さんは言います。

実際に欧米ではトラムの復活が大きな流れになってきており、オーストラリアのアデレードでは、トラムが運賃無料で運転していて、トラムは言うなれば「動く歩道」ならぬ「走る歩道」と考えられているそうです。 速さ重視の電車や地下鉄から離れて、東京でも大阪でも都心部に無料の路面電車を通すことで、モビリティの経験が豊かになり、都市としての在り方を大きく変化させることにつながっていくと吉見さんは主張されていました。



12/20「"都市の身体"を形成する交通インフラ」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者/東京大学大学院情報学環教授)



≪多層的な都市の歴史≫

ここまででお話されたのは、いわば現在の私たちの時間の流れですが、「都市の時間」にはもうひとつあります。それが、数百年単位の時間の流れです。

そもそも、時間というものは直線的ではないと吉見さんは言います。一本の直線のように時間が未来に向かっているのではなくて、現代の都市の至る所に、数百年単位の歴史の痕跡が残されていて、私たちは都市の中でこのいくつもの時間を経験することができます。つまり、都市の時間の中には未来に向かう時間もあるけれども、江戸の時間、明治の時間というように異なる時間が空間化されて都市に存在している。その異なる時代の時間をつなぐことによって、現代の都市の時間はもっと豊かになる、ということです。

例えば、吉見さんが注目されている東京の北東部には、戦前まで東京の中心であった上野・浅草があり、明治維新後は近代的な美術館・博物館などの展覧会場が次々に建設され、最先端の文化が花開く場所でした。さらに神保町や神田には、東京大学の旧キャンパスや一橋大学など多くの大学が集まる大学街があり、大正期には魯迅や孫文、周恩来をはじめとする5万人もの中国人留学生がいて、アジアとのつながりが深かい地域でもありました。また、江戸時代の名残が強いのも北東部ですが、江戸は参勤交代によって全国の文化が入り混じるコスモポリタン的な性格を持っていたそうです。このように東京の北東部には、現代における都市の在り方を模索するうえで、オルタナティブとしての東京を描くためのエッセンスが大量に残されているようです。

12/20「"都市の身体"を形成する交通インフラ」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者/東京大学大学院情報学環教授)



吉見さんの目には、大阪と東京がパラレルな関係にあるように見えるといいます。というのも、中之島には美術館やホールに、このアートエリアB1など新しい施設がある一方で、江戸時代から続く川辺や明治時代からある建物など、異なる時間のものが存在しているからです。異なる時間を経験できる豊かさが、ここ中之島のある種のルネッサンスを支えているのではないかと吉見さんはおっしゃっていました。



吉見さんのお話をお聞きして、われわれが何気なく過ごしているときの時間感覚がどのように形作られたのか、そして都市というものがいかに多層的であるか、良く理解できました。
都市を身体性や時間軸で捉えてなおしてみると、本当に色んなものが見えてきます。今回の鉄道芸術祭では、「都市の身体」について様々な方向から捉えた作品が展示されています。ぜひ、足を運んでみて考えを巡らせていただければ幸いです。

(展覧会は終了しています。)

12/20「"都市の身体"を形成する交通インフラ」ゲスト:吉見俊哉さん(社会学者/東京大学大学院情報学環教授)

 

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