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「コレクション特別展示 ジャコメッティとⅡ」と「鉄道芸術祭vol.9」を巡る夜
中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1

 2019.11.1(B1事務局 サポートスタッフ 毛利)

鉄道芸術祭vol.9が始まり1週間が経とうとしている11月1日、"人とまちの知と感性を育むクリエイティブ・シンキングの場と時間"をテーマに、中之島の文化施設ツアーやトークを開催する「中之島夜会」として、国立国際美術館「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」アートエリアB1「鉄道芸術祭vol.9」を巡るスペシャルツアーを開催しました。

11/1開催 中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜

まずは、国立国際美術館のコレクション展「ジャコメッティとⅡ」を、企画を担当された橋本梓さんのナビゲート付きで鑑賞するガイドツアーを行いました。

「ポートレート」をキーワードに美術の歴史を紐解いていく今回のコレクション展。美術館がコレクションを増やしていく過程のストーリーとともに、現代美術の中でのジャコメッティの位置づけを見ていきました。
会場入口には哲学者・矢内原伊作が撮影したジャコメッティの彫刻作品「ヤナイハラ Ⅰ」制作過程の写真が展示されています。1つの彫刻ができるまでの過程が写った2年間の数十枚の写真とともに完成した彫刻作品「ヤナイハラ Ⅰ」が置かれています。この彫刻作品は制作開始2時間でほぼ作品の原型ができていたようです。しかし、何度も何度も顔の細部(特に鼻)を作り直し完成まで2年もの歳月がかかりました。
ジャコメッティの「見えるものを見えるとおりに表現する」が体現された作品として油彩画の「男」も並べて展示され、対象をとらえる手段として顔を描くポートレートの意味を考えさせられます。

11/1 中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜

「ヤナイハラ Ⅰ」は、ある意味でジャコメッティと矢内原伊作との共同作品とも言えます。この作品を完成させるために矢内原氏は大阪大学で教鞭をとる合間を縫って何度もフランスへと渡り、何時間もじっと座り続けモデルを務め、世界でも希少なジャコメッティの制作過程の記録を残しました。ジャコメッティもまた「ヤナイハラ Ⅰ」を制作しながら、渡仏することさえ難しかったその時代で矢内原氏のために許可証や宿のサポートを全て負担し、2年もの時間をかけて彫刻作品を完成させました。お互いの協力と支援、忍耐、執念がなければこの作品を完成させることは難しかったでしょう。
「共同」の要素は展覧会の他の作品にも見て取れます。会場入口すぐに目に入る映像作品、加藤翼の「言葉が通じない」は作者自身と韓国人の男性との共同作業を撮影したものです。日本語しか話せない加藤翼氏、韓国語しか話せない韓国人男性は時にディスコミュニケーション、誤解を生みながら日本海の離島、対馬を目指します。時折挟まれるすれ違いに笑いを誘われながらも、二人の国の背景やその間にある問題、国が違う者同士の対話のあり方を考えずにはいられない作品です。

11/1 中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜

ポートレートは絵で描かれるものだけではありません。トーマス・ルフは真正面からバスト・アップの写真を撮り、2mほどの高さに大きく引き伸ばしてプリントアウトすることで手のひらサイズの写真から漂うのとはまた違った被写体の不思議な空気を作り上げます。
プリンティングあるいは過剰なズーム・アップによって対象となる人を新たに見つめ直す契機を与える例もあります。北野謙は数十名の人物を撮影した写真を重ねて焼き付け、輪郭や顔をぼやけさせることで写っている集団と個の存在について問い直します。石内都は人間の生きてきた過去を表わすポートレートとしての傷に注目し、クローズ・アップして写真に残します。

さらに奥へ進んだコーナーで注目すべき点は、女性アーティストの作品ばかりが展示されていることです。美術館で展示コレクションを入れ替える際には収蔵品リストをひたすら読み込むことから始まるそうです。橋本さん自身も美術館が過去の展覧会でなぜこの作品をコレクションしたのか、そして各作品の共通点などを考え、その中で非ヨーロッパの女性作家のポートレートのコレクションが少ないことに気が付いたとのことです。その疑問を反映し、このコーナーではより多様な表現として、「落穂拾い」などの著名な西洋絵画のレプリカをタイの村に展示し、村の人々が異文化の国からやってきた絵画を鑑賞しながら自由な反応・会話を繰り広げる様を捉えたアラヤー・ラートチャムスックを始めとしたアジア圏の女性アーティストの作品が展示されています。

11/1 中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜

展示会場の一番奥にあたる部屋では、ジャコメッティについての知られざるストーリーを題材に美術史を再検証したテリーサ・ハバード/アレクサンダー・ビルヒラーの映像作品を展示。ジャコメッティが実現しなかったフィクションの要素も含めた映像で、彼の物語を見直していきます。


一行は京阪電車で移動し、次はアートエリアB1へ。鉄道芸術祭vol.9「都市の身体 ~外から眺める私たちの輪郭、遠くから聞こえてくる私の声~」の観賞スタートです。

国立国際美術館では後世に作品を残すためコレクションされたものが展示されていましたが、一方でアートエリアB1ではまだ生まれたばかりの今の時代の作品を展示しています。対象的な展示の文脈もふまえつつ、今回は3名のアーティスト作品を当館運営委員のひとりである木ノ下智恵子さんのナビゲートで見ていきます。

11/1 中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜

・ジョンペット・クスウィダナント
インドネシアの複雑な政治性と、作家自身の個人的な記憶を結び合わせるような作品を発表しています。
一見デモ隊の行進に見える展示ですが、新作《Procession》は木製のおもちゃや子供時代に聞いていた、軍事政権統制下にあったポップミュージックを用いて自分の青春時代を表現しています。一方、2012年制作の《The Contingent #5》では今にも爆裂な音を奏でそうな楽器やマイクを持った人形が立っています。インドネシアのかつての独裁政権と民主化への移り変わりを背景としたこの作品は、喧騒と熱気を彷彿とさせる反面、そこにいるはずの人物の実体がありません。祝祭と暴力、記憶と歴史、喧騒と静寂を対比させることで自身のアイデンティティーやインドネシアの社会を表現した作品です。

中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜(撮影:表恒匡)

・武田晋一
「運ぶ」をキーワードに、海外から日本に来たものとしての鉄道、時間という概念、外来種の雑草「鉄道草」を用いた作品を展示しています。武田さんは展示するまでの運搬行為も作品の一つとして扱うことを特徴としています。本展でも活動拠点である奈良の東吉野村から展示会場の中之島までコンパクトに梱包した作品を身一つで運び込み、その行程を撮影して映像作品として展示し、武田さんが関心をもつ「運ぶ」行為のあり方を呈示しています。本展における武田さんの作品はジョンペットさんと小沢裕子さんの作品を緩やかに結ぶと同時に境界としての役割を果たしている点にも是非注目してください。

11/1 中之島夜会@国立国際美術館×アートエリアB1 「コレクション特集展示 ジャコメッティと Ⅱ」と「鉄道芸術祭vol.9 都市の身体」を巡る夜

・小沢裕子さん
言葉と身体の関係に焦点を当てた作品を作られており、本展での作品も映像の中の人物たちと鑑賞者の間で起こる微妙なズレを感じさせることで、言葉をどう捉えるか考えるきっかけを生み出しています。《石松三十石船道中》では5ヶ国5名の人々が伝言ゲームの形式で浪曲を聞こえたままのイメージ、音で順々に歌っていきます。本作では、それぞれの背景や人となりによって全く異なるイメージで受け取られた5者5様の《石松三十石船道中》と歌い継がれる過程でそれぞれのイメージが重なり合い少しずつ変容していく浪曲が捉えられています。《SPEAKERS 日本語学校の先生と生徒》は他者の身体を介したコミュニケーションを行う実験的なシリーズ作品の一つです。日本語教師と日本語を習い始めたばかりの中国人留学生に、他者からの声だけを手掛かりに発話・コミュニケーションを行ってもらうことで会話の構造、コミュニケーションをめぐる認識を改めて露見させています。

 橋本さんの解説の中で「アートは社会を映す鏡」という言葉が出ましたが、作品との出会いを通じてデジタルやグローバルにより世界が広がり表現が多様に広がっていること、しかし人間をとらえることへの探求は現代でも変わっていないことをどちらの展示からも感じました。
また、橋本さんも木ノ下さんも普段なかなかお話を聞けないお二人とあって、質問タイムでは美術展示に関わる仕事についても質問がありました。「共働」や「都市」といった現代人が生きる中で関わる要素を表現するアーティスト、作品のストーリーを組み合わせて展示をつくるキュレーター、そしてそれを受け取る鑑賞者がアートで繋がった瞬間を感じたイベントとなりました。

 
△ 「カタコト、空耳、デタラメの歌謡史:聞こえることと歌うこと」 - 2019.11.13(B1事務局 サポートスタッフ 金城)
▽ 「都市の身体―世界の内と外からの考察」 - 2019.10.26(B1事務局 サポートスタッフ 野村)

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