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神戸はどこへ向かうのか 〜アートプロジェクト:TRANS- が目指すもの
プロジェクトミーティング

 2019.6.4(B1事務局 下津)

新開地、兵庫港、新長田の3つの地区を舞台に、今秋初の開催となる「アートプロジェクトKOBE 2019:TRANS- 」。歴史的に海外との交流が多く、外来文化と交わりながら独自の文化を育んできた神戸という地で行われる今回の芸術祭は、「何かを"飛び越え、あちら側へ向かう"ための試み」とされています。

今回のトークイベントでは横浜トリエンナーレ2014でもキュレーターを務めたディレクターの林寿美さんをお招きし、その取り組みをご紹介していただくとともに、現代アートとまちの関係や国際展/芸術祭のあり方、その可能性について語っていただきました。

 

6/4 プロジェクトミーティング「神戸はどこへ向かうのか 〜アートプロジェクト:TRANS- が目指すもの」ゲスト:林 寿美(TRANS- ディレクター)

TRANS- の会場は主に湾岸エリアに設けられています。文化的に洗練された北野坂やポートタワーのあるハーバーランドなどの街中ではなく、あえて下町や工業地帯を選び、そこで面白いことをやってみようという試みからこのプロジェクトはスタートしました。さらに一つの場所や拠点に絞り込まずに日常の風景の中に溶け込むように作品を展示することで、多義的な意味をその作品の中に見いだすことができます。ここで2名の参加アーティストの作品を少しだけ紹介しましょう。

 

ドイツの炭鉱町、ライト出身のグレゴール・シュナイダーさんは16歳の頃から自宅の部屋の中に別の部屋をつくるなど、異空間と非現実的な体験の創出を得意とするアーティストです。2001年にはヴェネツィア・ビエンナーレでドイツ館代表として選出され、最優秀作品として選ばれたものにだけ与えられる金獅子賞を受賞しました。

まず、今回のプロジェクトのために新たに制作される作品《虚構か現実か》(仮称)。
この作品の舞台となるのは昭和43年に兵庫県の衛生研究所として設立された旧兵庫県立健康生活科学研究所です。シュナイダーさんはこの廃ビル全体を作品化し、大型インスタレーションにしてしまうという試みを企てています。ビルに足を踏み入れた観客たちは非日常的な検査室、研究室、動物舎などの昔の痕跡が残る空間をさまよいながら違和感あるいは恐怖に近い体験に遭遇し、現実と虚構の間を行き来することができます。なお、建物は展示終了後に取り壊しが決定しているため作品はTRANS- 開催期間のみの限定公開となっていることも注目すべき点です。

廃墟を利用したり非日常的空間要素を取り入れた作品は他の会場でも展示される予定です。
兵庫港エリアでは昨年の3月頃まで1泊50円で宿泊できたといわれる、日雇い労働者のための一時宿泊施設「兵庫荘」を作品化した《消えゆく兵庫荘》(仮称)を設置、さらに新長田エリアの駒ヶ林駅構内には数年前にCIAによる収監者への拷問で話題になった、キューバのグアンタナモ湾収容所内の施設を再現したインスタレーション《白の拷問》(2005〜)を展示します。

 

6/4 プロジェクトミーティング「神戸はどこへ向かうのか 〜アートプロジェクト:TRANS- が目指すもの」ゲスト:林 寿美(TRANS- ディレクター)

 

一方、もう一人の参加アーティストであるやなぎみわさんは、中上健次の小説を原作にした2016年初演の野外劇《日輪の翼》に、神戸という地域性に合わせた新演出を折り込み上演します。公演場所はやなぎさんの生家の近くである神戸市中央卸売市場埠頭。芝居、歌、生バンド、サーカス、ポール・ダンスなど華やかで生々しく不思議なパフォーマンスで構成される幻想的な世界が今回どのように生まれ変わったのか、そしてやなぎさん自身の生まれ故郷である神戸とどのように交わるのか、大変注目度の高い作品です。

 

6/4 プロジェクトミーティング「神戸はどこへ向かうのか 〜アートプロジェクト:TRANS- が目指すもの」ゲスト:林 寿美(TRANS- ディレクター)

 

今回のアート・プロジェクトの背景には「兵庫県の海岸線を活性化させたい」という願いがあります。林さんもまた神戸市の須磨区出身だそうですが、神戸で生まれ育った林さんの目から見ても特に海岸沿い地域では時代とともに様々な変化が生まれてきつつあるようです。特に南部は元々在日韓国人の多い地域でしたが、昨今ではベトナムやミャンマーからの移住者やクリエイターの移住も増えており、下町芸術祭が開催されたことからも独特な地域性と新しいムーブメントが誕生しはじめている土地でもあります。さらにTRANS- の会場の一つでもある新開地も数十年前までは地元の人たちの間でも「子供や女性が一人で行ってはいけない場所」と呼ばれるような地域でしたが、現在では高層マンションが次々と建設され大きな商業施設ができるなどファミリー層が集まってくるようになりました。このように時代とともにその土地の雰囲気や文脈が変化していく中で、アートの持つ力も何か役に立てられるのではないか?というのがTRANS- が探求する可能性です。

 

そしてTRANS- の新奇性は、地域のアート・プロジェクトにおいて、シュナイダーさんの作品のような恐怖や違和感、今まで味わったことのない不思議な感覚に陥りながらも「興味深い」という気持ちに腹落ちするような作品で挑戦しようとすることにあると本トークの中で明らかになりました。地域性の高い芸術祭は「元気になる」「励まされる」あるいは「町おこしになる」といった価値観へと転換することを目指す傾向がある中で、こうした形での非日常との交差を試みることは地域性と芸術性の交わりに対する大いなる期待になるかもしれません。

「アートプロジェクトKOBE 2019:TRANS- 」は今年9月14日(土)〜11月10日(日)開催予定です。日常と非日常の往来、時代とともに変化する地域性を体感できる新たなプロジェクトに期待大です。

 

「アート・プロジェクトKOBE2019:TRANS- 」開催概要
会期:2019年9月14日(土)~11月10日(日)
出展作家:グレゴール・シュナイダー、やなぎみわ
ディレクター:林 寿美
開催エリア:兵庫港地区、新開地区、新長田地区
▶︎詳細は「アート・プロジェクトKOBE2019:TRANS-」ウェブサイトからご確認ください。

 

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