スタッフブログ > 鉄道芸術祭

クロージング・イベント「トーク&ライブ」【前半】
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.8

 2019.1.26(B1事務局 下津)

 11月10日から約2ヶ月半に渡って開催していた鉄道芸術祭vol.8「超・都市計画〜そうなろうとするCITY〜」が、とうとう閉会の日を迎えました。

 展覧会ならびに関連イベント共々多くの方にご愛顧いただいた鉄道芸術祭のクロージングを祝し、トークゲストに批評家の佐々木敦さん、ライブにNEW MANUKEとDJ方(ぽう)さんをお招きしました。

鉄道芸術祭vol.8 関連プログラム
クロージング・イベント「トーク&ライブ」
日時:2019年1月26日(土)18:00─20:00
トークゲスト:佐々木敦(批評家)
ライブ出演:NEW MANUKE(音楽グループ)、DJ 方(DJ)
イベントの概要は▶︎コチラ

1月26日 鉄道芸術祭vol.8クロージングイベント「トーク&ライブ」【トークゲスト:佐々木敦さん(批評家)】

 佐々木さんは「超・都市計画〜そうなろうとするCITY〜」を読み解くにあたって、キーワードである「鉄道」からいくつかのアーティストの作品事例を紹介されました。

 まず、アメリカの実験映画作家ジェームズ・ベニング。ベニングは「風景映画」と称される、固定した長回しのショットで風景を撮影するスタイルで知られています。代表的な『カリフォルニア・トリロジー』シリーズ三部作の『セントラル・ヴァレー』(1999)や『ロス』(2000)、『ソゴビ』(2002)のように、彼の映像作品における主な被写体は、画面を横切る電車や雲が流れる青空、道路沿いのビルボード、郊外の木々などのありふれた風景です。基本的にBGMやナレーションをはじめとする演出はほとんどなく、そこにあるもの、そこで起こるものがただそれとしてそのまま画面上に映し出されます。
 ここで佐々木さんがとりあげたのは、2007年の作品『RR』です。『RR』の被写体は、郊外の線路を走る貨物列車です。ここでも映像の中で事件や出来事は一切起こらず、フレーム内に電車が現れ、そしてまたフレームの外へ走り去るまでが映されているだけです。 

 「これを観て何を思うのか?」と佐々木さんは問いかけます。まず印象に残るのは、走る列車の音です。列車、電車、鉄道は乗り物であるだけでなく、ある種の楽器としての可能性をはらんでいるのではないかと佐々木さんは指摘します。

 

 さらに、鉄道の持つ音の魅力に注目した音楽作品にノイズミュージシャンと呼ばれる音楽家クリス・ワトソンのフィールドレコーディングによる楽曲が紹介されました。フィールドレコーディングとは楽曲の録音をスタジオなどの通常の録音環境に制限せず、外で録音を行うことによってあえて環境音や自然音を一緒に記録する制作方法を指します。

 ここで紹介されたのは「幽霊列車」を意味する『El Tren Fantasma(エル・トレイン・ファンタスマ)』の名を冠した2011年のアルバムです。このアルバムは、1998年までカリフォルニア湾岸からメキシコ湾岸を横断して走行していたメキシコ国鉄の閉鎖に際し1ヶ月にわたって乗車してあらゆる音を記録し、それらをサンプリング・加工することで魅力的なサウンドに昇華した作品です。 

1月26日 鉄道芸術祭vol.8クロージングイベント「トーク&ライブ」【トークゲスト:佐々木敦さん(批評家)】

 鉄道に注目した創作を行なったアーティストは国内にもいます。
 サウンドアーティストの角田俊也氏とHACO氏による『The Tram Vibration Project』(2006)は、「聴こえない振動の環境版をつくる」というコンセプトで音の観察と抽出を試みたものです。恵美須町から浜寺駅前間を往復する阪堺電車内にて自作のコンタクトマイクを使用して「振動」という人間の聴覚では聴こえない音をキャプチャーする二人は「視覚に頼らず空間を探る経験が逆に普段より意識された」[1]ことを発見します。

 

 ベニングの映像作品、クリスの音楽、角田氏とHACO氏によるプロジェクトはそれぞれ手法と様式は全く異なりますが、列車で発する音を録音して三者三様のやり方によって一種の芸術表現に昇華している点で共通しています。列車の走行音、環境音は普段電車を使う我々にとって耳慣れたものでありますが、かえって意識にのぼらないほどごく当たり前のものになっています。先にあげた三つの事例は、「聴こえているのだけれど聞いているわけではない音」に気づき耳を澄ますという段階を超え、さらにその音自体を自分の表現として引用していることに佐々木さんは注目しました。

 

 聴覚や視覚の精度を上げることで得られるこの新たな視点は、都市にも向けることができます。そのヒントともなる作品のひとつとして、チャールズ&レイ・イームズの『パワーズ・オブ・テン』(1968)が挙げられました。これは公園でピクニックをしている男女を真上から撮影し、10倍、100倍、1000倍とズームアウトしていき、宇宙空間まで到達したところでまた同じようにズームインしていくことで映っている男性の皮膚や細胞の世界、さらに素粒子の世界まで近づいていくという短編映画です。私たち人間は粒のような存在であり、さらに私たち人間の中にも粒があるということを感じ取られる実験的映像としてよく知られている作品ですが、佐々木さんはこの映画を引用しながら「私たち自身が感覚や認識を更新し見方を変えれば、見慣れすぎてしまった日常的な都市の形が違って見えてくる」と語ります。

 

1月26日 鉄道芸術祭vol.8クロージングイベント「トーク&ライブ」【トークゲスト:佐々木敦さん(批評家)】

 佐々木さんが最後に紹介したのは、このトークのほんの3日前にこの世を去った映画監督ジョナス・メカスの映像作品です。ジョナス・メカスは「日記映画」と呼ばれる、自身の毎日をただ記録した映像を多く残した作家でした。『ウォールデン』(1969)や『リトアニアへの旅の追憶』(1972)といった代表作に見られるように、継ぎ接ぎの映像にのせられるのは静かな音楽かメカス本人の囁くような声だけです。
 彼はフィルムやビデオを回し続け、少しずつ日常を撮影し、それらをつなぎ合わせていくことで多くのものを記録しようとしました。断片的なショットやシーンが次々に切り替わっていく様子は、まるでまばたきをする視線そのものを記録しているようです。こうした手法で撮られた記録は、メカスがどのような目で世界を見ていたのか、そしてその映像を見ている私たち自身の世界に対する見方との違いは何かを気付かせてくれるきっかけを感じさせました。

 

 「世界が日々変化する一方で、私たち自身も日々更新しています。そして更新されていることに少しだけでも意識を向けることで見慣れた世界が新鮮なものに見える、もしかすると多少毎日が楽しくなる、自分でも気付かないうちに見え方や感じ方が変わっているということが面白いことであり、そしてこれこそがアートの意義なのではないでしょうか。」佐々木さんのこの言葉によって、クロージング・トークは締めくくられました。

 

クロージング・イベント後半
DJ 方(DJ)NEW MANUKE(音楽グループ)のライブ・パフォーマンスの様子は、
▶︎コチラのスタッフブログからご覧下さい。

 



[1] (角田俊哉氏のコメント、The Tram Vibration Project公式サイトより引用)http://www.hacohaco.net/soundart/tram_vibrations_j.html

 
△ クロージング・イベント「トーク&ライブ」【後半】 - 2019.1.26(B1事務局 下津)
▽ 「カラスが見た都市」 - 2019.1.24(B1事務局 江藤)

  2019年7月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

スタッフブログ カテゴリ一覧

スタッフブログB1 日々の記録