2017年12月 イベントスケジュール

「グラフィックデザインと鉄道」(植木啓子さんをお迎えして)
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭

 2017.12.12(B1事務局 スタッフ 菊池/サポートスタッフ 林)

12月12日(火)、鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」の関連企画、ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」を開催しました。

 

ゲストに、日本屈指のグラフィックデザインのコレクションを誇る大阪新美術館建設準備室主任学芸員の植木啓子さんをお迎えし、鉄道とグラフィックデザインの歴史や、その親和性についてお話いただきました。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」 鉄道がまだ生まれていない時代では、距離的にも人数的にも一度にたくさん移動することは物理的に限界があったので、大勢の人が同じ何かを目にする機会はなく、大衆に向けて情報を発信する必要がさほどありませんでした。しかし、鉄道ができたことで大勢の人が一箇所に集まることが実現し、それにより「都市」が生まれたため、"大衆を意識した視覚表現=広告"の必要性がでてきたのです。そこで注目されたのは、大勢にイメージを拡散することのできる広告としてのグラフィックデザインでした。

 

その最も有名なひとつの例として、ロンドン地下鉄の路線図について、まずお話いただきました。

 

地下鉄路線図のデザインで最も重要な転換点があったのは、1931〜32年でした。
それまでの路線図は地理的に縮尺が正確に示されており、目的地までの経路が一目では分かりづらいものでした。そんななか地下鉄の地図に本当に必要なものは何かと考えられた時、伝えたい情報と関係の薄い「正確な距離や地形」などを簡素化して、電車の経路だけをシンプルなデザインに落とし込んだ路線図が発表されました。

この路線図を作成したのは、デザイナーではなくヘンリー・チャールズ・べックという製図技師でした。
ヘンリーの作ったロンドン地下鉄路線図は、現在わたしたちがよく目にする路線図の雛形とも言えるものを作り上げたのです。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」

また、当時は、地下鉄の利用客は通勤だけを目的とする人が中心でした。しかし線路はその区間以外にも長距離に通っており、通勤客とはまた別に昼間の乗客層を増やそうと考えました。

時間に余裕のある人をターゲットに、地下鉄を利用して如何に遠くまで行ってもらうか、旅行してもらうかということが思案されました。

それまでの駅のポスターは決まった箇所に決まった情報を貼るだけのもので、鉄道の旅客は一向に増えませんでした。しかし1920年代~30年代にかけてアーティストたちが描いた鉄道に関するポスターは、快適な列車内のイメージや、鉄道で到着した先にある観光地の美しいイメージなど、鉄道を使うことにより素晴らしい体験が出来るというイメージを主張したものを使用。これらのポスターをそれまでとは違った様々な箇所に掲出して、鉄道の良いイメージを拡散する手段"広告"として使われはじめました。こうして鉄道広告は誕生していきます。

 

また、路線図、会社ロゴ、広告というものがそれぞれバラバラなデザインのものではなく、1つのコンセプトで統一することで、快適で安全な「ロンドン地下鉄」というイメージブランディングを、グラフィックデザインを使って形作っていったのです。

 

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」

 

続いて植木さんが示したのは、ロンドン交通局で使われる『Johnston100』という100年間同じ文字を用いて作られたポスターでした。

活版で作成された、同じ文字をずっと使用してポスターが作られているのには、それなりのベースがありました。これらのポスターは5つの文字の太さ、即ちウェイト(活版の重さ)を持たせて、ヘアライン仕上げされたものです。こうした独自のフォントを使いつづけることでロンドン交通局のイメージブランディングに非常に大きな役割を果たしました。この文字は現代のデジタル化に合わせて2016年に改定され、現在に至っています。

 

 

続いては、いくつかの鉄道とデザインの進歩に非常に関連のある、ポスター資料を紹介いただきました。時代とともに鉄道技術は進歩し、デザインに必要とされる事柄、概念もどんどんと変化・進歩していきます。

フランスの鉄道広告製作者であったカッサンドルは、今で言う「効果線」のようなものを、エアブラシを用いて描画することで鉄道のスピード感を表現したポスターなどを作成し、線路や車輪などをピックアップしたデザインを用いることで鉄道のダイナミックさを表現しました。

またPULLMAN急行(所謂オリエント急行の運行会社)がヨーロッパの様々な国を跨いでサービスを提供することを告知するためのポスター「一つの国、一つのヨーロッパ Wagons-Lits」なども紹介頂きました。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」 広告ポスターはある時期からアーティストがデザインを任されることが多くありましたが、やがてだんだんと広告ポスター専門の作家デザイナーが登場してきます。代表的なものはPLC(パリ、リヨン、コートダジュール)。これには佐伯祐三という、何と大阪出身の日本人が大きく活躍していたりします。

そして1960年代になると、サービス広告が増えていきます。例えば、ポスターの半分は男性のシルエット、もう半分は女性のシルエットで彩られた利用客層のイメージに関するものや、他社線の半額で旅行ができるというお得感を表したポスターなど、現代に通じる多種多様な広告が生まれてきます。

 

一方日本における鉄道広告は、明治時代には広告が禁止されていたために大正時代以前の資料は余り残っていません。しかし大正時代になると、広告は収入になるということが判り、どんどんと発展していきました。

日本での初期の鉄道ポスターである「梅田難波間全通」という大阪御堂筋線開通時のポスターがあります。「梅田」「難波」という文字を並べ、電車を配置し、単刀直入に伝えたいメッセージを表現しています。当時日本にはまだグラフィックデザイナーという職種はなく、おそらく路線のことを良く判っていた現場の人間が指示を受けて、描いていたのではないかと思われます。そのためか、当時の駅の広告枠にはデザインによる統一感はなかったそうです。即ち本来、グラフィックデザインと広告グラフィックデザインとは分かれているのですが、日本においては垣根がありませんでした。

12.12ラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「グラフィックデザインと鉄道」

こうして、鉄道とセットになっているグラフィックデザインに関する話が時代に沿って次々と展開していき、デザインにおける考え方、概念に移っていきます。

20世紀に入りフランスのグラフィックデザイナーのカッサンドルは、広告に対し次のようなことを提唱しました。『この場所にはこの表現というように場所ごとに一目見て判るような表現が求められているのではないか』というものです。

 

鉄道芸術祭vol.7は『鉄道、身体、知覚、行動』をテーマに、文字と情報のあり方を考えるような展示でした。

現代の都市に目を向けると、例えば最近の駅などにおける階段の広告や電車扉の広告、ラッピング電車など情報発信として貪欲ともいえますが、その背景には鉄道の仕組みそのものが、色々なものに対して貪欲であるということを考えると納得ができます。

鉄道広告は、広告媒体の変化と共に内容、場所ともに変遷をしていきました。現在の電車内では様々な形の広告が展開していますが、まだ広告として使えるようなスペースはたくさんあり、今後広告を含めた車内デザインがどのように変化していくかも楽しみなところです。

 

 

最後に、印刷にはアート印刷とそれ以外の通常の印刷がありますが、通常の印刷が簡単に出来るようになってしまった分、質が低下してきていることに植木さんは警鐘を鳴らしています。また反対にとても緻密なものもあり、印刷のクオリティにも差が出てきています。これからは、印刷を見る受け手側もビジュアルを判断する能力を身につけることが必要なのかもしれないとおっしゃられました。

 

現代の都市生活の中で、グラフィックデザインは何気なくも常に目に入るものではありますが、だからこそ、それが人々の行動や興味、情報認識、さらには組織のシステム、イメージなどに深く関わるとても重要な役割を果たしていることを、鉄道に関わるグラフィックを通して改めて思い、その進歩と現在のカタチやこれからの在り方などを思考することで、とても興味深く感じました。特に電車内など、今後どのような斬新な広告形態が出現するかといった、社会や技術の変化によるグラフィック表現の進歩にもさらに注目をしたくなりました。

「レールの曲げ方概論」
ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭

 2017.12.8(B1事務局 菊池)

12月8日(金)、鉄道と現代美術の企画展・鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」の関連トークとしてラボカフェスペシャルfeaturing鉄道芸術祭「レールの曲げ方概論」が開催されました。

今回の展覧会「鉄道芸術祭vol.7」の展示作品の中には、本物の鉄道レールが立花さんの彫刻作品として出品されています。長さ5メートル程度、重さは300kgほどになります。
このレールは、本日のゲスト「工務部保線課」のお二人に京阪車両基地で曲げて頂いたものです。これを中心に展覧会の構成が組まれていったという経緯がある重要な作品で、保線課の方々の仕事なしには得られないものでした。
では、保線課の仕事とは何なのでしょうか。

普段電車に乗るときにはあまり意識していないものの、それがないと電車は走ることが出来ない「線路」。日々線路に危険がないかを点検し、整備し続ける京阪電車「工務部保線課」のお二人をゲストにお迎えして、保線課の日々の業務内容や、実際のレールの加工についてなど、私が日頃知り得ない「線路(軌道)」のお話を伺いました。

12.08ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

ゲスト:
木戸宏(京阪電気鉄道(株)工務部保線課大阪保線係主任)
築山拓矢(京阪電気鉄道(株)工務部保線課設計担当)

カフェマスター:
塚原悠也、木ノ下智恵子(アートエリアB1運営委員)

まずは今回のトークタイトルにある「レール」や「線路」が何を指すかというところからトークは始まりました。
線路とは、レールだけで構成されているのではなく、主に《砂利や砕石(バラスト)》、《枕木》、そして《レール》の三つで構成され、これらは「軌道」と呼ばれます。他にも線路には頭上の電線やそのほかケーブルや信号などの構成物もありますが、今回のトークでは、本日のゲスト「保線課」のお二人が担当される「軌道」についてのお話がメインとなりました。
ゲストの木戸さんは保線課一筋30年の職人さんであり、築山さんは設計、経理担当です。
京阪電車は住宅地の間を縫って走っている為、とてもカーブの多い路線です。今回はインターネット上の地図を使って京都の路線を俯瞰しながら話していきました。
乗っているとあまり感じないことも多いですが、地図上で見てみるとかなり急なカーブもいくつかあります。

12.08ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

では、そのレールは一体どうやって曲げているのかというお話に入っていきました。
1メートルあたり約50kgという、とても重くて硬い鉄の塊を曲げるには、機械ではなくレール敷設現場で人間の手で曲げています。先に設置してある枕木に沿って、テコの原理を使って人力で少しずつ曲げて入れていくので、機械であらかじめ曲げたものを入れるということはありません。機械を使って曲げるのは、ごく限られた特殊な一部分のみです。
機械で曲げる場合は専用のマシンを使って行われます。レールを左右2点で挟み、真ん中をジャッキで押すという、かなりシンプルな仕組みです。機械自体は小型のため、レール全体を一度に曲げるのではなく、機械を少しずつ移動させながら全体を曲げる作業を行います。

1208ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

レールの主な原料は鉄です。かなり純度の高い、上質な鉄が使われています。
鉄は温度の変化によって膨張したり収縮したりするので、鉄の塊であるレールも気温の変化によって、なんと伸び縮みします。場合によっては曲がったり千切れたり、特に夏場は急激な熱膨張で、枕木に押さえつけられているレールが一気に伸びる瞬間に「ボン!」と破裂音がすることもあります。
そういったレールの変形に対応する為に、継ぎ目には多少のすき間がわざと空けてあります。走行中の「ガタンゴトン」という電車特有の音は、この継ぎ目を通る時に鳴る音なのです。
日々軌道(線路)の状態を監視して、夏はすき間を広げ、冬は逆に間を詰め、異常があれば交換したりと、電車を運行する上で危険な箇所がないように、巡回しながら点検、補修・維持管理を行うことが、保線課の主な業務です。

具体的な点検方法は、電車の運転席の隣に乗ってレールを目視しながら車両の揺れを感じる調査や、実際に線路に下り目視で点検します。
点検の結果異常があった部分のレールを交換する場合は、枕木はそのままにレールのみを交換します。当然1mmのズレもなく、元あったものと全く同じ場所に、寸分の違いもなく設置していきます。それらは全て、人の手で行われています。
近年は機械化が進み、異変箇所の調査に機械を用いるようになりましたが、機械の数値だけでは見えないものもあるため、最終的にはmm単位のレールのズレを、身体の感覚で判断して調整していきます。「保線は経験工学」と言われており、経験を積んだ人間が判断し、作業をするという、まさに文字通りの職人の世界です。
自分の保線担当箇所は、「自分の家の庭だと思って手入れしろ」と木戸さんは入社当時に先輩社員から教わったそうです。
日々伸び縮みして変化するレールは「生き物です」というお二人のお話がとても印象的でした。

 12.08ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭vol.7「レールの曲げ方概論」

今回のトークは、「レール」がテーマで実際の作業をされている方がゲストということもあり、非常に電車に関心の高い方が多く参加されていました。トーク後半の質疑応答では待ってましたとばかりにかなりマニアックな質問が次々と飛び交い、とても賑わいました。レールの繋ぎ目を溶接する場合の方法や、レールのより詳しい曲げ方、車輪とレールの接地面の荷重について、京阪で一番長いロングレール(溶接された、継ぎ目のないレール)の長さ、レールの敷設時の持ち上げの方法、などなど。時間ギリギリまで質問は尽きませんでした。

普段から電車に乗るときだけでなく街中でもよく目にしているはずの線路ですが、あまり気にしたこともなく知らないことばかりでした。まさかレールが温度でそこまで変化するようなものだとは思いもよらないですよね。
それは裏を返せば、鉄道利用者が「気にならない」レベルまで異常が起こらないように、常に点検と補修をしている保線課の皆さんをはじめとした鉄道会社の安全管理の徹底さを表している、という話がありました。
乗るたびに「電車は危険かもしれないから覚悟をして乗る!」などと考えるようなものは普段から気軽には利用できません。
高速で移動する電車には本来危険なことがたくさんあるはず。そこをしっかりと確実に安全を確保し、利用者が危険を感じることのないよう、電車は安全でしかも正確であるという信頼を昔から勝ち取ってきた日本の鉄道会社の仕事のレベルの高さがあるのだということを感じました。

使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」
鉄道芸術祭vol.7関連トークプログラム

 2017.12.3(B1事務局 三ヶ尻)

12月3日(日)電車公演「電車と食堂とコントと」終演後、 トークプログラム「車窓の旅~ポルトガル編~」を開催しました。

鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」のはじまりにもなったポルトガルの旅について、リサーチメンバーである建築家の荒木信雄さん、作家の石田千さん、料理家・文筆家の高山なおみさん、そして鉄道芸術祭vol.7メインアーティストの立花文穂さんをお迎えし、それぞれの視点から見たポルトガルの旅と展覧会についてお話し頂きました。

12.03使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」

─ポルトガル・リサーチの旅の経緯について─

2017年11月10日から開催している本展は、2017年の夏、メインアーティストである立花さんの提案により、荒木さん、石田さん、高山さんとともに、ポルトガルをリサーチする旅から始まりました。

 

なぜポルトガルをリサーチ?とお思いかもしれませんが、これには経緯があります。

立花さんは何かを生み出す時に建築家の荒木信雄さんとお茶を飲むことが慣例で、今回も例によって立花さんと荒木さんはお茶をしながら本展のアイデアを生み出していきました。2人が鉄道芸術祭を企画するにあたって、荒木さんがよく訪れていたポルトガルのポルトとリスボンは、京都と大阪に共通している点が多いということに気がついたそうです。

また日本とポルトガルは歴史的にみても関連が深く、安土桃山時代、日本からポルトガルへ旅立った天正遣欧少年使節が活版印刷や宗教の概念など様々な技術や文化を持ち帰り、それらが日本の近代化に大きな影響を与えました。

このような共通点もあり、今回、現代の使節団として4人はポルトガルへ渡ることとなったのです。

 

ポルトガルに何度も行かれている荒木さんは、リスボンにあるパスティス・デ・ベレンのエッグタルトは絶品で忘れられない味らしく、【エッグタルト→食べること→高山なおみ】と立花さんの中で線が結ばれた結果、3人目の使節は料理家であり文筆家の高山なおみさん。そして、雑誌「球体」で『もじの緒』を連載されており、旅の情景を文字で形にする作家の石田千さんが4人目の使節となりました。

12.03使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」

─ポルトガルの日々─

高山なおみさん「ポルトガル料理の盛り付けと食べ方」
ポルトガルではイワシの塩焼きやたこを煮付けたもの等、日本人が普段食べている料理とそっくりなものによくお目にかかります。またポルトガル料理の薄い味つけも日本人の舌に親しみ深いと言われています。

高山さんはポルトガル料理そのものや味ではなく、食べ方やお皿の盛り付けなどを観察されていました。ポルトガル料理はメインディッシュの上に規則的な大きさに切り揃えらた副菜がおおいかぶさるように盛り付けられていることがよくあるそうです。
また、電車公演で上演された『イワシとムサカ』では、高山さんがイワシと付け合わせの野菜たちを細かく刻み、混ぜ合わせて食べる様子が印象的でした。立花さんは高山さんのイワシの食べ方をみて、料理を口に運ぶまでの過程も料理をしているようだと言い表していました。

12.03使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」

石田千さん「ポルトガルのサウダージ」
ポルトガルの民謡歌謡、ファドを好きな方も多いのではないでしょうか。ファドの歌詞には、サウダージ=郷愁、懐かしい気持ちを表わす言葉が度々登場します。石田さんは、ファドに限らずポルトガルの文学や詩にもこのサウダージを大切にしている印象があると言います。そして、ポルトガルの人たちの言うサウダージをリスボンの坂から見る街並みにも感じたそうです。リスボンは坂の多い町で、歩いているとすぐに息がきれます。その度に立ち止まり、振り返る。振り返ると青いテージョ川。石田さんは、この立ち止まり振り返るからだの行為と心情にポルトガルの人たちのサウダージがぴったりだと感じました。

また、旅の間は亡くなった人たちのことを考えていたという石田さん。旅の最中に訪れる余白の中に、今はいない人たちの姿が浮かび、ポルトガルへの旅はとくに記憶や気持ちの整理をする時間だったと言います。

 

荒木信雄さん「何もない感じに引き寄せられる」
荒木さんがはじめてポルトガルに行ったのは30代の頃でした。はじめて行った時から、荒木さんはポルトガルの何もない感じに引き寄せられたと言います。その経験から、何もない余白の部分をどう捉えるのか、他者といかに余白のような時間を共有するのかということをよく考えるようになったそうです。 またある時、ポルトガルで夕日を見た荒木さんは心を打たれ、「人は一瞬の記憶でもつのだ」と考えるようになりました。その夕日を見た時の感覚が荒木さんの思考に多大な影響を与えていると言います。

12.03使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」

立花文穂さん「見るタイミングが変われば、見るポイントが変わる」
立花さんは鉄道芸術祭vol.7に取り掛かる為にまず、電車に乗ることから始めました。京阪電車で〈京都─大阪〉間を何度も往復したそうです。電車に乗ったら外を見たいので、必ず窓側に座るという立花さん。しかし撮影中に感じたのは、外の風景を見ているようで意外とガラス面を見ているかもしれないということでした。 立花さんの作品「川の流れのように」では、車窓からみえる風景、そして車窓のガラス面に反射して写り込んだ車内の様子、双方を映し出しています。車窓からみえる風景などは立花さんが意図して映したものですが、車窓のガラスに反射していた車内の様子などは意図せず写り込んでいたものも多くあったそうです。今回作品をつくる際、後者が意外と良いと感じられたと立花さんは言います。鉄道芸術祭vol.7のメインビジュアルになっていた車窓に映った女性は立花さんにとって意図せず写り込んでいたものだったようです。この女性が本展のメインビジュアルとなったように、見るタイミングが変われば、見るポイントが変わるとおっしゃられた言葉がとても印象的でした。

また立花さんは、ともに現代の使節となった荒木さん、石田さん、高山さんについて、"自分時間で動く人"と表現されていました。それぞれのタイミングでものを生み出せる人たちなので、ポルトガルの旅が何にもならないはずがないと確信があったと立花さんは語ります。それぞれの時間で動いてもらうために「もしかしたら一緒に旅をしないほうが良かったかもしれない」という立花さんの言葉に、会場では笑いが起こりました。

12.03使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」

それぞれのエピソードを聞く中で、ポルトガルの土地から受け取ったもの、また、それぞれの感覚や経験がゆるやかに混じり合い、影響し合う旅だったのだと感じました。そして、鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」と「球体7号」としてアウトプットされた時、展覧会場の中で端々に感じる異国の文化の匂いが、わたしたちに旅に出向く直前の時のようなワクワクとした気持ちを想起させたのではないかと思いました。

 

 

 

 

電車公演「電車と食堂とコントと」を開催しました。
鉄道芸術祭vol.7イベントプログラム

 2017.12.3(B1事務局 三ヶ尻)

12月3日(日)に電車公演「電車と食堂とコントと」を開催しました。
電車公演とは、走行する電車を舞台とした一回限りの特別なプログラムです。

今回、国内では希少となった食堂車やお座敷列車へのオマージュを込めて、料理家・文筆家として活躍されている高山なおみさんと、のどかな新古典派ナンセンスコメディを展開するコントユニット、テニスコートがゲストとして乗車し、特別電車「電車と食堂とコントと」を発車しました。

ーーーーーーー 

当日の様子を少しご紹介します。

中之島駅で受付を済まされた参加者の皆さんは、特別切符と、『球体7号・特別臨時便』テニスコート『快速急行インモラル』の2つの限定紙を手に、3つの車両にご乗車いただき、それぞれの席からじっくりと「電車と食堂とコント」を楽しんでいただきました。

車掌のアナウンスとともに扉が閉まり、特別電車がいよいよ出発。
電車の振動と振動音に心地よく揺られながら、各車両に設置されたモニターより高山なおみさん『イワシとムサカ』の映像が始まりました。まず、ごろごろとした立派なじゃがいもを皮がついたまま茹でています。「マッシュポテトのムサカ」です。熱々のじゃがいもを布巾の上にのせ、皮をひとつずつ剥いていく。皮が剥かれたじゃがいもたちをよく潰し、たっぷりのバターと牛乳を入れてはまた潰し、どんどん滑らかなマッシュポテトになる様子が映し出されていました。画面の中にはキッチンの青いタイルや近所のスーパーでよく見るパッケージの牛乳、そして、淡々とじゃがいもを潰す高山さんの後ろ姿。

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

公演当日はとてもお天気が良く、京橋駅を過ぎたあたりからたくさんの日光が車内に差し込みました。ぽかぽかと暖かい車内で映像の中の高山さんの後ろ姿を眺めていると、懐かしい場所に帰ったような、のどかな気持ちになりました。

また時折、映像の高山さんと重なるように、鉄道芸術祭vol.7「STATION TO STATION」で展示している高山さんの作品『ポルトガル日記』を高山さんご自身がマイクを通して朗読します。この作品は、鉄道芸術祭vol.7の始まりとなったポルトガルでの日々が日記として綴られているものです。朗読する高山さんの伸びやかな声とともに、ポルトガルで高山さんが見た光景が車内にふわりと立ち上がるようでした。

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

光善寺駅を過ぎた頃、BGMをきっかけに各車両に1人ずつ乗車していたテニスコートの3人がマイクを片手に各々立ち上がります。テニスコートのコントの題材となったのは、日本人で初めて公式にヨーロッパへ上陸した「天正遣欧少年使節」です。当時のヨーロッパを想起する襞襟(ひだえり)のついた洋服、手に黒革表紙の本を持った3人は、うろうろと車内を歩きながら、年表のような日記のようなものを読み上げ始めました。3人は異なる車両にいるのにも関わらず、近距離で話しているかのような会話がマイクを通して全車両で繰り広げられます。

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

日本からポルトガルへ渡る場面を演じるテニスコート扮する天正遣欧少年使節。大阪から京都へ向かう京阪電車は、さながら日本からポルトガルに渡る船中のようでした。 

枚方駅あたりで、3人は車両間を移動し始め、真ん中の車両で合流したり、また別れたり──。しかし各車両で聞こえる声の距離感は変わらず、車両から演者がいなくなっても言葉の投げ方と息遣いから場面の状況を捉え、想像を重ねるような、そんなコントでした。時折、旅路には暗雲が垂れ込めたり、気持ちよく晴れ上がったり、まるで車内の空間が伸び縮みするように3人のリズミカルな会話が積みあがっていき、時に笑いを誘います。

樟葉駅で停車すると、映像の中の高山なおみさんは、次の料理「イワシの塩焼き」にとりかかっていました。付け合わせの野菜たちを茹でたり、切ったり、和えたり。イワシはあら塩とともにグリルにかけられます。

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

電車は樟葉駅で折り返し、再び大阪方面へ走り出します。
行きの電車で繰り広げられたテニスコートのコントは同じ配役で、ポルトガルから日本に帰る船中のある日の出来事に移ります。コントでは、実際にはいない4人目の登場人物が登場し、別の車両にもう一人の人物がいるかのように話は進んでいきます。わずか3両の空間が、広大な海を渡る船であるかのような錯覚を引き起こします。

テニスコートのコントが終幕した頃、高山さんの「イワシの塩焼き」は、イワシの上に野菜が盛り付けられていました。そして、白いワインとともに、「イワシの塩焼き」を高山さんが食べる時間。付け合わせの玉ねぎや硬めにゆでられた卵、ピーマンのマリネをナイフで刻み、イワシの身からナイフとフォークで器用に骨を取り除き、じっくりと時間をかけて料理が口に運ばれます。料理の映像を見ていて生唾を飲む瞬間というのは誰しも経験があると思いますが、「イワシの塩焼き」は、食べているときの高山さんの仕草からも"美味しい"を感じました。

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

電車は終着の「なにわ橋駅」に到着。「なにわ橋駅」の改札口には、高山なおみさんの「イワシとムサカ」が蝋細工の食品サンプルで展示されていました。

車内のモニター越しに見た、高山さんの調理と完成した料理と食事の風景。そして実物の料理から型を取って作られた食品サンプル。
「イワシの塩焼き」も「マッシュポテトのムサカ」も、ポルトガルの代表的な料理の一つです。
ポルトガルへ行き、ポルトとリスボンを鉄道で旅した高山なおみさん。その日々を辿る朗読。
日本からポルトガルへ命がけの船旅をした天正遣欧少年使節。
使節の旅路をコントで辿るテニスコート。
大阪と京都を行き来する鉄道。窓から差し込む暖かなひかり。
異なる時間と空間と文化が車内で渾然一体となりながらも、出発駅から終着駅へ一直線に向かう鉄道の旅を楽しむ、そんな公演でした。

電車公演で上映した「イワシとムサカ」の映像と食品サンプルは、アートエリアB1の展覧会場にて1/21まで展示しています。

また、高山なおみさんによる「ポルトガルを感じる料理7品」のレシピが掲載された「球体7号・臨時特別便」も展覧会場でご購入いただけます。

電車公演に乗れなかった方は、この機会をぜひお見逃しなく。

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

12.03電車公演「電車と食堂とコントと」

終演後、アートエリアB1では、使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」が開催されました。

現代の使節としてポルトガルに渡った、建築家の荒木信雄さん、作家の石田千さん、料理家の高山なおみさん、そして鉄道芸術祭vol.7メインアーティストの立花文穂さんがゲストとして登壇したこのトーク。こちらの様子は次のブログ、使節団トーク「車窓の旅〜ポルトガル編〜」でご覧ください。

(撮影:松見拓也)

 

 

≪  2017年12月  ≫

  2018年11月

        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

スタッフブログ カテゴリ一覧