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「災害ボランティアのいま」渥美公秀さんをお呼びして

6月14日(火)、現在開催中の企画展「サーチプロジェクトvol.5」関連プログラムとして、 大阪大学大学院人間科学研究科の渥美公秀さんをお迎えして、トークイベントを開催しました。
渥美さんは、災害ボランティアの仕組みや活動環境の改善を目的に、 被災地に赴き現場の当事者とともに実践的研究を続ける"グループ・ダイナミクス"の専門家です。
今回のトークでは、災害ボランティアの過去から現在の状況を通して、 その課題や可能性についてお話いただきました。

渥美さんは、1995年の阪神・淡路大震災を経験されてから、 全国のみならず世界各地で災害ボランティアの活動をされています。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

災害ボランティアの活動を行う上で、渥美さんは次の5つのことを大切にされています。
・ただ、傍に寄り添うこと。立ち去らないこと
・被災者中心
→当たり前のことのように思うけど、制度や法律が中心の人、自分中心の人がおられるそうです
(熊本地震ではボランティアセンターが中心だったといわれます)
・声なき声に耳を傾ける
・注目が集まらなくても
→メディアに取り上げられている場所にばかり人や物資が集まる、明星災区の問題
・支援から交流、そして復興へ

今回のトークでは、4月に発生した熊本地震での活動をもとに実際の活動の様子を ご紹介いただきました。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

全国から集まるボランティアの窓口となるボランティアセンター。
ここでは、被災者のニーズに合わせて、人手を要している場所にボランティアを派遣していきます。

では、そのニーズはどうやって集まってくるのでしょうか?

それは、住民の方々に「ニーズ」と書かれた紙が事前に配られ、その中の項目に被災者がチェックを入れます。
その紙がボランティアセンターに集められ、そのニーズに合わせてボランティアを現場に派遣する仕組みになっているそうです。

でも実際には、予め設定された項目に当てはまらないことや、言い出せないニーズがあります。
例えば、「水を汲んできて欲しい」「話を聞いて欲しい」「ペットを散歩に連れて行って欲しい」など、 些細なことでも個人にとっては、とても切実な問題でもあります。

渥美さんは、そういった既存の制度では解消できない個々人が抱える問題に対して、 自ら被災地に赴き、被災者の声を聴き、寄り添うことで、被災者が本当にしてほしいことを聴いてから作業を行います。

その活動の一つとして行っているのが被災地での「足湯」です。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

足湯と言っても、そこでマッサージ等をするわけではなく、ただお湯に足を付けて、 ボランティアが話し相手となって様々な話をする場です。被災者同士ではないからこそ、 他愛もない世間話ができ心の痛みが和らげられるといいます。

その活動は、とても行政や企業ではできないことです。

「災害ボランティア」という言葉が日本でも定着して数年が経ちますが、 渥美さんいわく、 現在は「災害ボランティアの二極化」が進んでいると言われます。
「秩序化を求める動き」と「被災者に寄り添う遊動化の動き」。
そして、社会的には秩序化にドライブがかかっていることに警鐘を鳴らされます。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

また、渥美さんは救援時だけでなく、被災地で築かれた人との繋がりをずっと維持し続けられています。
その活動は、長い長い復興の道のりを手助けするだけでなく、 新たな活動の芽吹きや人材の育成、そして全国に広がるネットワークづくりにも繋がってもいます。

長期的な支援の仕組みの一つとして、 八戸、弘前、関西の有志が立ち上げた「チーム北リアス」というネットワークがあります。
これは、東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県の北リアス地域の復興を長期的にお手伝いするために、 岩手県野田村で活動をしている団体・個人が互いに情報を共有したり、 知恵やノウハウや人脈を提供しあったり、ときには一緒に活動するためのネットワークです。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

このチーム北リアスを窓口として、大阪大学の教員・学生が復興交流活動に継続的に参加していく仕組み が生まれました。
そして2013年には、未来へと繋がるさらなる研究・教育の拠点として大阪大学の 「岩手県野田村サテライト」が誕生します。
ここでは、遠隔教育システムを配備し、長い復興の道を歩んでいる地域だからこそ見えてくる未来の 共生社会のあり方について、地域での活動を通して研究を展開していく拠点として、 様々な活動が行われています。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授) ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

さらに、渥美さんは世界各地での災害ボランティアの活動を通じて、防災や救助のあり方も研究されています。

阪神・淡路大震災の時、約35000人の方が生き埋めになりました。
そのうち、約27000人の方は住民により救助され、 自衛隊や消防隊員により救助された方よりも圧倒的に生存率が高かったそうです。
そのことから、自衛隊や消防隊だけに頼るのではなく、 今後の災害ではこの27000人を1人でも2人でも多くしていくことが必要ではないかと渥美さんは仰られます。

そのための仕組みづくりの一つが、『地震イツモノート』(木楽舎 、2007)です。
ここでは、「いつも防災のことを考える」のではなく、「いつもやっていることが防災になる」という考えのもと、 日常生活の一部として防災が考えられています。
例えば、隣の人と挨拶をする。ご近所付き合いをする。そんなごく普通の日常が防災に繋がります。

ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授) ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト「災害ボランティアのいま」ゲスト:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

これからの防災を支える上では、「専門家から市民というベクトルの修正が必要」であり、
「専門家が「正解」なわけではない、市民が「成解」をひねり出すしかない」
という渥美さんの言葉がとても印象的でした。

その他、トークでは、台湾集集地震(1999)、イラン南東部地震(2004)、中国四川大地震(2008)、ロマプリエータ地震(1989)など、 世界各地の復興の事例も紹介してくださいました。

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"ボランティア元年"といわれた1995年の阪神・淡路大震災以降、新潟中越沖地震や東日本大震災などを経て、 その存在が定着した「災害ボランティア」。
ですが、現代においては、メディアのあり方、行政による管理や規制、教育機関との関係などなど、 様々な要因が弊害となり、純粋に助けたいという気持ちに抑制がかかったり、 参加動機が歪曲したり、本当に助けて欲しい人に手が届かなかったりと多くの問題もはらんでいます。

しかし、行政や企業の活動では汲み取れないような、声なき声に耳を傾け、被災者に寄り添い、 既存の支援制度からこぼれ落ちるものに手を差し伸べる、そんな網の目のような柔軟性に富んだ支援ができるのは 災害ボランティアだけだと思いました。

何が正解で間違いではなく、行政、企業、住民、そしてボランティア、 それぞれが享受/奉仕の立場のみに陥ることなく、支援や防災、救助のあり方を考えること。 そうすることで多層的で目の細かい社会の仕組みがつくれるのではないでしょうか。

「災害ボランティアのいま」を通して見えてきた問題は、決して災害時のみに関することではなく、 大きな社会の傾向やそれに左右されるわたしたちの意識の問題でもあり、
人と人とのコミュニケーション、地域コミュニティ、行政と住民の関係、メディアのあり方、制度と規制と管理等々の問題です。 だからこそ、「災害ボランティア」の問題に向き合うことは、 わたしたちの未来の社会を考えることに繋がるのだと知らされた、とても貴重な時間でした。

 

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