スタッフブログ

ラボカフェスペシャル featuring サーチプロジェクト
オープニングトーク「ニュー"コロニー/アイランド"3 ~わたしのかなたへ~」

 2017.4.7(B1事務局 サポートスタッフ川原)

アートエリアB1で3月28日からスタートした企画展「ニュー"コロニー/アイランド"3〜わたしのかなたへ~」。4月2日(日)は関連プログラムとしてオープニングトークを行いました。ゲストには、今回の展覧会のプロジェクトメンバーである大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授の吉森保さん、建築ユニットdot architectsから家成俊勝さん、土井亘さん、寺田英史さん、アーティストのやんツーさんをお迎えしました。

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オープニングトークでは、2015年からの「ニュー"コロニー/アイランド"」展1と2の振り返りと、dot architects、やんツーさん、吉森さんからの活動内容や研究内容のご紹介、そして実際に展覧会場を巡りながらギャラリートークを行いました。

 

〜「ニュー"コロニー/アイランド"」展の振り返り〜

本展は、「ニュー"コロニー/アイランド"」と題した展覧会の第3弾であり、シリーズ最終回となる展覧会です。

本題のトークに入る前に、まずは2015年と2016年の展覧会を振り返りからスタート。

2015年は、「ニュー"コロニー/アイランド" 〜"島"のアート&サイエンスとその気配〜」と題し、プロジェクトメンバーに大阪大学理学研究科 教授の上田昌宏さん、北海道大学電子科学研究所 教授の中垣俊之さん、建築ユニットのdot architects、アーティストのやんツーさん、プログラマーの稲福孝信さんを迎えて、"島やコロニーの実験・創造性"と、"粘菌の知と工学的ネットワーク"をテーマに開催しました。会場では、粘菌を培養するラボと3Dプリンタで中之島の建造物を生成するラボ、"菌核"寺、1/150の中之島型の培地〈仮設の中之島〉と、壁面に投影された〈仮想の中之島〉などが設置され、〈仮設の中之島〉と〈仮想の中之島〉、それぞれで粘菌が異なる都市風景を生成していきました。

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続く、2016年の「ニュー"コロニー/アイランド"2 〜災害にまつわる所作と対話〜」では、アドバイザーとして惑星地質学・鉱物学研究者で大阪大学理学研究科 准教授の佐伯和人さん、民俗学者で東北大学災害科学国際研究所 教授の川島秀一さんにご参画いただき、東日本大震災から5年目を迎える年に、改めて地球の営みとも言える地震による地殻変動などの「災害」について考え、様々な視点から「対話」を試みる展覧会を開催しました。出展者には、3がつ11にちをわすれないためにセンター/せんだいメディアテーク、写真家の畠山直哉さんや米田知子さん、志賀理江子さん、ホンマタカシさん、漫画家のしりあがり寿さん、現代美術家の高嶺格さんや小山田徹さん、加藤翼さん、contact Gonzoなど、国内外で活躍する表現者や公共団体等が集いました。会場では、一軒家を模した空間の随所に、それぞれの作品や活動記録、また過去の災害にまつわる資料が壁紙やファブリック、テレビに映る映像として展示され、会期中には"リビング"や"庭"などで様々なテーマで対話プログラムが繰り広げられました。

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そして、今年の展覧会。「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」と題した本展は、"わたしたち自身"に着目します。

プロジェクトメンバーには、2015年の「"島"のアート&サイエンスとその気配」のプロジェクトメンバーでもあったアーティストのやんツー氏、同じく2015年のプロジェクトメンバーであり、2016年の「災害にまつわる所作と対話」では会場設計・施行を担当した建築ユニットのdot architects、そして今回はコンセプターとして大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授の吉森保さんをお迎えしました。

 

〜プロジェクトメンバーによるそれぞれの活動紹介〜

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク05 dot architectsの活動紹介の様子

建築ユニットdot architectsは大阪を拠点に、建築設計事務所を運営されています。店舗や住宅の設計等のいわゆる建築設計事務所が行う仕事をする傍ら、一般的にイメージする設計事務所とは異なるプロジェクトでも参加されています。アートプロジェクトのパフォーマンスに参加し即興で空間をつくったり、展覧会の会場構成や地域の人たちと交流しながらコミュニティスペースの設計をするなど、自身の身体をつかってその場で空間をつくることをされています。今回は、私達の身体をつくるたんぱく質をイメージした細胞的遊戯装置が点在する体内公園「仮説公園」をつくっていただきました。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク06 やんツーさん活動紹介の様子

やんツーさん(アーティスト)は、デジタルメディアを使って作品をつくっています。いかに装置を有機的に動かせるかということに注目しており、装置にセンサーを仕込み、人の数や騒音量などの環境を規定する要因をセンシングして装置の動きに反映させたドローイングマシーンなどを作成されています。このドローングマシーンは自立して動き、抽象的な絵を描きます。そして現在、山口情報芸術センターで展覧会期中の作品では、大きさや種類の様々な展示物(扇風機やカラーコーン、車など)に、インターネットのホームページからアクセスすると誰でも憑依することができ、実空間の展示物をインターネット経由で動す作品を発表しています。

今回やんツーさんには、もうひとつの体内公園「仮想公園」をつくっていただきました。dot architectsが作成した細胞的遊戯装置にセンサーを仕込み、来場者が遊戯装置を動かすことで「仮想公園」の映像空間に反映されます。来場した際は、遊戯装置の動きがどのように「仮想公園」に反映されるのか是非ご注目ください。

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次に吉森保さんからご自身の研究についてご紹介いただきました。吉森さんの専門は、私たちの身体を構成する細胞内の事象の一つである「オートファジー」です。「オートファジー」は、大隅良典さんが2016年のノーベル医学生理学・医学賞を受賞した研究テーマです。ニュースなどで聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。吉森さんは大隅さんと共に研究を行い、昨年の授賞式にも出席されました。「オートファジー」は細胞内で不要なものを分解し、また、新たなものを生成する細胞内リサイクルシステムの一部です。「オートファジー」は細胞内の不要となったタンパク質などを膜が包み込み、これが、分解酵素リソソームと融合し、たんぱく質がアミノ酸まで分解する現象です。このアミノ酸は適宜、再びタンパク質に合成され細胞の部品となったり、または、代謝されてエネルギーとなったりします。

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吉森さんのトークの中で、「ギリシャ神殿」と「伊勢神宮」の比較がありました。どちらも、数千年以上存在する建物ですが、一方は、一度頑丈に建てられてそのままの建築、もう一方は式年遷宮という儀式のもと、20年ごと建て替えられた建築です。しかし、建て替えられた「伊勢神宮」は、創建当時の姿といわれており、見た目に変化はありません。このことは生物に通じることであり、日々の生物の姿、細胞の見た目の変化は些細なものですが、体内に存在しているアミノ酸~それを構成する炭素、窒素、酸素、水素原子は、数日で入れ替わる劇的なものです。建築と生物の不思議な共通です。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク09 ギャラリートーク

今回の展覧会で展示している「細胞的遊戯装置の仮設公園」は、アミノ酸の種類数と同じくらいの約20種類部材とジョイント方法によって構成されています。遊戯装置がタンパク質、部材がアミノ酸を模しています。「仮設公園」を制作されたdot architectsの家成さんから、展覧会の開催中に「オートファジー」を起こし、3か月の展示の中で部材を循環・再生させていきたいとの話がありました。設営で余った部材は通常展覧会のオープン前に撤去するものですが、細胞内で浮遊しているアミノ酸のように、いつでもタンパク質合成=遊戯装置の組み立てできるように、会場内に置かれています。ご来場の際には、見つけてみてください。

サーチプロジェクトvol.6オープニングトーク10 ギャラリートーク

展覧会場のもう一つの要素は、「仮想公園」です。dot architectsが制作した細胞的遊戯装置には、センサーが取り付けられ、来場者が装置を動かすと、「仮想公園」の映像が緩やかに変化してゆきます。仮設公園の遊戯装置と、細胞内の構造をモチーフに「仮想公園」を制作されたやんツーさんが仰られた「細胞のことを考えていくと、あれ?ここはどうなっているだろう、ということにぶつかる」という話には、はっとさせられました。実際に科学は、解明されていないことが、まだまだたくさんあります。細胞も同様です。教科書には、解明された断片のつなぎを、想像イメージで補って記されているにもかかわらず、読んでいると全部わかっているような錯覚に陥っていることが多くあります。「わからないことにぶつかる」というのは、実際に構築する側に立つと、見えてくる物事があると再認識する話でした。

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その他トークの中で、建築と細胞内現象の共通項は、高度経済成長期に作られたインフラの老朽化、建築のメタボリズム運動への言及まで広がりました。一方、デジタル技術の領域では、攻殻機動隊やAIの話題が飛び出し、身体運動と知能成長の関連について意見が交わされました。遠い分野の専門家が集うことにより、考えの輪郭がはっきりしたり新しいものの見方が生まれたりする面白さを感じました。

 

アートとサイエンスがぶつかった現場、そして身体感覚を研ぎ澄ます展覧会、「ニュー"コロニー/アイランド"3~わたしのかなたへ~」を是非見に来てください。

サーチプロジェクトvol.6「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」開幕

アートエリアB1の春の企画展・サーチプロジェクトvol.6「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」が3月28日より始まりました。

当館を活用して、アートや知の可能性を探求(=search)する企画展「サーチプロジェクト」。
2015年からは、「ニュー"コロニー/アイランド"」と題して3回にわたるアート&サイエンスの展覧会を開催しています。
〈これまでの「ニュー"コロニー/アイランド"」展〉
2015年 「ニュー"コロニー/アイランド" 〜"島"のアート&サイエンスとその気配〜」
2016年 「ニュー"コロニー/アイランド"2 〜災害にまつわる所作と対話〜」
昨年、当館を一軒の家に見立てて開催した「災害にまつわる所作と対話」の展覧会が記憶に新しい方もおられるのではないでしょうか?

これまで2年にわたって「島と粘菌の知」や「惑星地球と災害」をテーマにしてきた本シリーズ。いよいよ今年がシリーズ最終回です!
今年の企画は、「ニュー"コロニー/アイランド"3〜わたしのかなたへ〜」と題して、"わたしたち自身"に着目します。

プロジェクトメンバーには、2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典教授とともに国内のオートファジー研究を率いる吉森保
建築設計・施工だけに留まらず、「瀬戸内国際芸術祭2016」などの様々なアートプロジェクトにもかかわる建築ユニット・dot architects
デジタルメディアを基盤に、グラフィティやストリートアートなど公共の場における表現にインスパイアされた作品を制作するアーティスト・やんツーをお迎えして展覧会と、会期中には多彩なトークプログラムを展開します。


ではさっそく、会場のなかを少しご紹介しましょう。

入口バナー、看板 注意看板

入口には印象的なピンクのバナーに細胞の営みのひとつである「オートファジー」の画像が配置されています。本展は、わたしたちの体の15%を占めるタンパク質の構造をメタファーにしてつくられた【仮設公園】と【仮想公園】という二つの空間で構成されています。

これらの空間は、「見る」と「遊ぶ」の二つの方法で体験することができます。安全に遊んでいただくために、入口で「ご入場前の注意事項」をよく読んでから臨んでください!

サーチ6ホワイトボード

さて、会場に入ると大きなホワイトボード。そこには会場図とともに、本展のキーとなるアミノ酸とタンパク質の階層構造が大学の講義さながらに記されています。

なんだか難しそうですが、簡単に説明すると......
タンパク質は20種類のアミノ酸でできています。この20種類のアミノ酸の組み合せ方によって何万種類もの異なる働きと役割を担うタンパク質がつくられていきます。そしてそのタンパク質同士がくっつき合うことでさらに異なる役割を担うタンパク質へと変化していきます。(学術的にはこれを1次元構造〜4次元構造として説明します)

そして会場の【仮設公園】には、だいたい20種類くらいの材料とジョイント方法でつくられた「細胞的遊戯装置」が点在しています。

サーチプロジェクトvol.6オープン02 サーチ6会場

この「細胞的遊戯装置」に来場者である皆さんが触れたり、乗ったり、滑ったり、さらに装置を移動したりすることによって、装置に内蔵されたセンサーが反応します。

するとどうなるかというと、壁面に映し出された【仮想公園】のなかでこの細胞的遊戯装置が現実空間とは異なる動きで変化していきます。

つまり、"だいたい20種類くらいの材料"がアミノ酸、それを組み合わせてつくられた「細胞的遊戯装置」がタンパク質、さらに、来場者である皆さんもタンパク質に見立てて、タンパク質同士がくっ付いたりすることで、【仮想公園】のなかでは新たなタンパク質が形成される、というわけです。

 

何はともあれ、まずは会場で遊んでみてください!

というわけでお次は「細胞的遊戯装置」を少しご紹介しましょう。

入口ブランコ

見ての通りの「ブランコ」です。が、身近でブランコをする機会も街中ではなかなか無いと思います。からだの感覚を開いて、是非ひと漕ぎしてみてください。いつもと違った身体感覚を思い出せます。

シーソー

不思議な形をしていますが、「シーソー」です。両端の下に付いている筒は柔らかい素材で出来ているので、体重を掛けるとかなり弾んで、すごい浮遊感です。バウンドのさせかたによってはかなり激しいシーソーになるので注意です! 日常生活ではシーソー的な身体感覚もあまり経験しないですよね。

その他にも、動く平均台やジャングルジムなど、なかなかスリリングな装置が盛りだくさんです。
(安全に注意しながら遊んでくださいね)

サーチプロジェクトvol.6オープン03 サーチプロジェクトvol.6オープン04

一方、壁面に投影されている【仮想公園】はどんな感じでしょう?

映像の中には、会場内の「細胞的遊戯装置」が漂っています。そのなかを歩き続ける一人のおじいさん。会場にある「細胞的遊戯装置」の動きに反応して、この【仮想公園】はダイナミックに変化していくわけですが、これがどのように変化し、そしておじいさんは一体どうなるのか!? それは会場に来られた際のお楽しみとさせていただきます。

サーチプロジェクトvol.6オープン06

そんな仮想空間に入り込む体験ができるのが"VRブランコ"です!

ヴァーチャルリアリティのヘッドセットを付けてブランコに乗るという、なんとも浮遊感あふれる装置です。会期初日から大人気です。
(体質等によっては体験していただけない場合がありますので、体験前に会場の注意書きをご確認ください)

サーチプロジェクトvol.6オープン05

先にも書いたように、これらの「細胞的遊戯装置」は、それぞれがアミノ酸でできた「たんぱく質」をイメージしていますが、体のなかにはタンパク質になる前のアミノ酸も浮遊しています。

というわけで、会場の片隅には資材(=アミノ酸)がプールされているところも。

アミノ酸プール

この「アミノ酸」を原料に、6月25日までの会期中にたんぱく質の「装置」が更に増える、かも???

自分という意識やからだの感覚と向き合う本展。一度ならず何度でも、この「体内公園」に遊びに来てください!

※お怪我だけなさらぬよう!動きやすい服装でお越しいただくことをおすすめします!

   


今週末4月2日(日)にはプロジェクトメンバーを迎えてのオープニングトークを開催します。こちらも必聴です!
ラボカフェスペシャルfeaturingサーチプロジェクト
オープニングトーク「ニュー"コロニー/アイランド"3 〜わたしのかなたへ〜」

日時:4月2日(日)16:00ー18:00
定員:50名程度(当日先着順・入退場自由)
ゲスト:吉森保(大阪大学 生命機能研究科/医学系研究科 特別教授)、dot architects(建築ユニット)、やんツー(アーティスト)
カフェマスター:木ノ下智恵子、久保田テツ、塚原悠也(アートエリアB1運営委員)

「見えない世界の現し方」(五十嵐大介さんをお迎えして)

 2017.3.20(B1事務局 スタッフ 菊池)

展覧会「ストラクチャーの冒険」最終日の前日、1月21日(土)に、出展作家の一人である漫画家の五十嵐大介さんをゲストにお迎えして、トークプログラム「見える世界と見えない世界を描く/漫画家・五十嵐大介」を開催しました。今回は、進行役として京都マンガミュージアムの研究員である伊藤遊さんにもお越し頂き、五十嵐さんの作品の魅力に迫りました。

「魔女」紹介

五十嵐さんは、緻密な描写と独特の世界観で、自然と人間の繋がり、神話や伝承の世界、生態系や生命のなりたちを描き出す漫画家として知られています。今回の鉄道芸術祭では、五十嵐さんの代表作の一つである短編集『魔女』(小学館)などの原画をもとにしたインスタレーションにより空間を構築しました。

五十嵐さんの代表作には、
魔女という一貫したテーマに独自の視点を加えて描かれた短編集『魔女』、
海と港町と水族館を舞台に、宇宙と生命の成り立ちに迫る長編作品『海獣の子供』、
五十嵐さんご自身の自給自足の経験をもとに描かれ、2014〜2015年に映画化された『リトル・フォレスト』などがあります。

今回のトークでは、それぞれの作品のルーツを紐解きながら、展覧会のテーマである「ストラクチャー」(文明や歴史を内包する世界の構造)に対する、五十嵐さんの視点や考えをお伺いしました。

 展覧会使用コマ

五十嵐さんの作品に共通する魅力の一つとして、非常に緻密に描かれる風景・景色がありますが、それらの風景や景色のほとんどは、実際に五十嵐さんが見てきた景色が多いそうです。

五十嵐さんにとって、旅先での風景のスケッチは、初めて行った場所や空間と仲良くなる為の行為だと言います。

もともとは、周りの生き物を観察したり、好きな歌を口ずさんだりすることで、その場所と徐々に馴染んでいく感覚があったそうですが、次第にその詩や言葉が自分のもので無いことが気になりはじめます。そして、自分なりの手法で場所へアプローチすることを考えた結果、スケッチという手法に行き着きました。
スケッチを通して、初めて会った場所と仲良くなり、描き終わった時にはその場所と繋がる感じがして、顔を上げると景色が違って見えるそうです。

「自分と空間を隔てている距離感がなくなり、"自分がちゃんとそこにいる感じ"」

その行為は、漫画のためのメモというわけでも、練習というわけでもなく、五十嵐さん曰く、その場所に「あいさつ」をする行為なのです。 

意外にも、漫画という平面的な表現に対して、空間の捉え方がすごく身体的で驚きました。

 スケッチ

今回の展覧会「ストラクチャーの冒険」では、社会や経済、そして生命のシステムを構成する既成概念や既知のストラクチャー(様々な構造や制度、仕組みなど)をアーティストが独自の視点で捉え直し、創造的にそれらを超えていく、ということが狙いの一つです。

では、五十嵐さんは、どんなふうに世界を捉えているのでしょうか。

以前、沖縄の取材から帰ってきた五十嵐さんは、飛行機から見た都市の姿が、地面にくっついている瘡蓋のように見えたと言います。何か下にあるんじゃないか、うごめいているんじゃないかと。 

また、五十嵐さんは「絵を描く」ということは「見る」ことが前提であり、「描く」より「見る」ことの方が大事で、大きな要素を占めていると言います。その結果として、こうした作品が出力されていっている、と。

おそらくこの「見る」という行為の背景には、表面的な情報をただ受け取るだけではなく、どのように見るのか、何を見るのか、そして何が見えていないのか、ということが非常に大事なこととしてあると思います。

五十嵐さんの作品をみていると、現代の日本に生きる私たちにとって、とても見え辛くなっている世界があることを再認識します。五十嵐さんにしか見えない、感じられないものを丁寧に漫画へと変換して、もう一つの世界のストラクチャーを示して下さっているのだと思いました。

 海獣の子供

 五十嵐さん

「見えない世界」を通じて考えるメディアの構造(ヴァージル・ホーキンス氏をお迎えして)

 2017.1.22(B1事務局 サポートスタッフ 小河)

1月17日(火)のラボカフェは、大阪大学大学院国際公共政策研究科の准教授であるヴァージル・ホーキンスさんをお迎えして、「『見えない世界』を通じて考えるメディアの構造」と題し、私たちを取り巻くメディアの構造について考えるトークイベントを開催しました。

 

ホーキンスさんのご専門は、国際政治、紛争研究(特にアフリカ)、メディア研究。中でも「見えない世界と情報の流れ」について関心をよせておられます。
今回は、マスメディアが伝えない事象の中でも、国際報道に焦点を当ててご講演いただきました。

 

ホーキンス氏.jpg

 

 

国際報道といえば、40数ページある紙面でも4項くらいで、紙面全体の10%程度だそうです。これは、私が新聞を読んだときの印象と同様の割合。

経済新聞等、専門紙を除いてはスポーツ欄のほうが余程充実しています。

 

そんな数少ない国際報道の中でも、実際に記事として取り扱われた事象には偏重傾向があるそうです。

 

今まで読んだ国際報道を思い起こしても、アメリカの記事は毎日のように何かしら掲載され、中国・韓国・中東アジアをはじめとした同じアジア圏、ロシアやユーロ圏の記事もよく目にしますが、中南米・アフリカでの記事が殆ど思い当たりません。

その状況を、統計資料を提示しながら具体的に説明していただきました。

 

報道数割合.jpg

 

ホーキンスさんはその中でも、紛争関連記事はニュースの歪んだ価値基準が色濃く反映されていることに警鐘を唱えられておられました。

近年において、思い当たる紛争と言えば、アフガニスタン、クリミア紛争、イスラエル-パレスチナ紛争、パリで起きたテロなどは一時期、連日報道されていたこともあり記憶に新しい方も多いと思われます。

しかし、アフリカでの紛争と言えば、エジプトのクーデター、ソマリア紛争、ルワンダ紛争等は報道されていたこともあり記憶にも残っているのですが、ホーキンスさんが提示した、紛争死者数の統計資料を見て、コンゴで起こった紛争が他のそれとは比較にならないくらいの死者数が出ていることを今回初めて知りました。

 

紛争死者数.jpg

 

それは、第二次世界大戦を除いては、ベトナム戦争の300万人を遥かに上回り、朝鮮戦争450〜700万人に並ぶくらいの500万人以上の死者を出しながらも、世界で認知されていない紛争があることを物語っているものでした。

その資料には、大小に拘わらず、報道されず、私たちの目にも耳にも触れられていない紛争がいくつも記載されています。

 

ホーキンスさんは新聞に載ることのないニュースが多くあることを説明し、それが戦争の規模(期間や死者数等)とは関係ないことを、綿密にリサーチされた資料を用いて解説されました。また、世界の紛争でイスラエル-パレスチナ紛争がいかに特殊で特権的な位置で扱われ、アフリカ・中南米地域が添え物のように、紙面を満たすために必要に応じて記事がピックアップされているのか。それは、特派員の配置や通信社もないような現状では物理的に致し方がない要因もあると思われるが、国民の多くが関心を持つ地域、何かしら自国に影響のある国、国益に関わる国、センセーショナルでストーリー性があるか否か等、マスメディアの偏った視点で記事が出来上がることを危惧しておられました。

結果的に国民は、報道されて記事になったことしか起きていないと思い込んでしまう状況に置かれていることになります。

 


問題の背景.jpg

 

自国や国民自身に影響・関心がなければ、それに関わる国以外に意識を向けることは困難なのかもしれないけれど、これだけ世界を知るためのインフラが構築されている時代であるにも拘わらず、それは非常にもったいないことです。

その国のことを知らないから関心を持つことが出来ないのか、報道等の情報が少ないから関心を持ち難いのか、定かなことはいえませんが、個人としては、そのための手段の一つを今回のトークで提供していただいたように思います。

 

その手段の一つとなるのが、現在ホーキンスさんがインターネット上で取り組まれている「Global News View (GNV)」という活動デす。「Global News View (GNV)」は、世界と世界が抱える問題を包括的に、客観的に把握できる情報環境の実現を目指すメディア研究機関です。報道されない世界に関する情報・解説の提供と、既存の国際報道の現状を分析しその改善を促進する活動を展開されています。

 ホーキンスさんが取り組まれている「Global News View」のご紹介

国際報道は新聞・TVで見聞きはしていますが、国別・世界の地域別に分けて報道割合を考えたことがなかったので、ホーキンスさんが見せてくださったたくさんの統計資料や、分析手法がとても新鮮でした。
そして、メディアによってこのような「見えていない世界」が形成されていることに気づかされる、とても貴重な機会となりました。

「航空機の運航に見る物理学の役割に関して」(小川哲生さんをお迎えして)

 2016.12.27(B1事務局 くはの)

12/22(木)、鉄道芸術祭の関連企画として「航空機の運行に見る物理学の役割について」というトークプログラムを開催しました。ゲストは、昨年の鉄道芸術祭vol.5でもトークゲストとしてお越しいただいた、理論物理学者であり大阪大学理事・副学長の小川哲生さんです。昨年のトークでは「電車に乗る」ということを出発点に、物理学の視点から「移動の未来」、「車窓の景色/何が見えるか」、「ワープ・ワームホール」、 「光の形」、「速度」、「線の移動と点の移動」ということをキーワードにお話をしていただきました。今回は、「航空機の運行」に着目します。

小川さん曰く、物理学とはいろいろなものの動きのメカニズムについて「なぜこう動くのか?なぜなんだ!?」

という疑問が起こるか否かが勝負の学問とのこと。

ご自身は、目の前の物事に対して「どうなってるの?」「なぜこうなってるの?」という好奇心を元来からお持ちだったそうです。

 

そんな小川さん、なぜ飛行機に興味をもたれたのでしょうか?

約2年前に伊丹空港の近所に引っ越しされたとき、ふと生駒山の方向をみていると飛行機が着陸してくるのが見えたそうです。

暗くなってから南のほうをみると、特に離着陸が多い時間帯である夕方から夜にかけての伊丹空港周辺は、飛行機が一直線上に並ぶように順序良く降下していくのだとか。

そのとき小川さんは、「どうやって等間隔に並べているのだろう?」「どこで飛間距離を調整しているんだろう?」といった疑問がわきました。

着陸の際、飛行機は管制塔からの指示で誘導され、一定の角度を保ち、線を描きながらだんだん降下していくのですが、その様がとても美しかったそうです。

「管制官たちは、目にみえない"着陸ルートの滑り台"に各飛行機をのせていかなきゃいけない。滑り台の入口に等間隔に導いていくために、その手前で絶妙に距離を調整していかなければいけない、それが彼らすごくうまいんです」

と熱っぽく語る小川さん。管制官とは、とても緊張感のある仕事だと改めて感じました。

↓写真は、飛行機が「飛びながら前に進む」仕組みについて解説される様子です。

航空機の運航に見る物理学の役割に関して1.JPG 

さらに、トークのなかでは飛行機にまつわる様々なマメ知識もお話してくださいました。

*パイロットと捕パイロットは別の食事をたべる

→どちらかが万が一食事であたっても、運転・操作できるようにするためです。

*昔はジャンボ機は、エンジンが4つあった

→4つあれば一つ破損しても飛べるということが理由でしたが、結局整備に手間がかかるので現在の大型機のエンジンは2つになっています。

そして、右と左のエンジンの整備はそれぞれ違う人が担当します。同じ目で両方を整備してしまうとヒューマンエラーが起きる可能性が高くなるためです。

*飛行機のガソリンタンクはどこにあるのか

→主翼のなかにあります。左右をバランスよく使うようになっています。

また、静電気の発生を防ぐため、放電で逃がすように翼のうしろにはアンテナがついています。

などなど、へぇぇえーと思わず唸るお話しが次々に飛び出してきました。

 

次はプロジェクターに地図が表示されました。

これは、インターネットで公開されているフライトレコーダーです。

航空機の運航に見る物理学の役割に関して2.JPG

小川さんがマップ(飛行経路)をみせながら説明してくださいます。

地図上を移動する飛行機をクリックすると現在飛んでいる飛行機の種類、発着場所などが分かるようになっていて、飛行機の高度まで色分けで表示されます。

お仕事で飛行機に乗られることも多い小川さん。伊丹空港は夜9時を過ぎると着陸できないため、飛行中に9時をすぎると関西国際空港に変更になるそうです。そのような時は、嫌だなぁと思いながらも、イレギュラーなフライトを楽しまれているのだとか。

会場のお客さんも、集中して画面に映し出される地図を食い入るように見つめていました。

次に小川さんが取り出したのは、なんと無線機です!

「ハム無線とは違います、あくまでも聴くだけです。航空無線は傍受してもよいことになっているんですよ。合法です。ただし聞いた内容は他言無用です」

通常、パイロットと管制官のやり取りは英語です。しかし、非常時には日本語が飛び出すこともあるようです。例えば、雷の危険がある場合、地上スタッフは外に出てはいけないので、離陸も着陸もできません。そういう時、パイロットから咄嗟に日本語で「どうなってるんだ!」という交信も入るそうです。

普段、飛行に乗っているだけでは気にすることもないパイロットと管制官の交信。でもこの「声の交信」によって、飛行機の運行は支えられていることを改めて知りました。当たり前といえば当たり前ですが、空を見上げて、そこに飛行機が飛んでいるということは、そこには眼に見えなレーダーの通信網があり、人間の声が飛び交っている。そういうことを考えると、今日から少し空の景色が変わって見えそうです。

航空機の運航に見る物理学の役割に関して3.JPG 

参加者からの質問タイムも盛り上がり、名残惜しい空気を残しながらあっという間の閉会。

いつもいつも、面白い切り口で聴き手の心を掴む小川さん。物理学という一見難しそうなテーマですが、身近な現象を出発点に、世界の仕組みの一端を紐解いて見せてくださいます。

普段、私たちが特に疑問をもつこともなく見慣れているもの、乗り慣れているもの、感じ慣れていること等について、その仕組みを知るということは、異なる世界が広がるということです。

今日のお話では、「航空機の運行」をテーマに、飛行機の仕組み、空のこと、風のこと、そして管制官とパイロットの"声による飛行機の運行"について、今まで知らなかった世界のほんの一端を知ることができました。

イノシシとブタとヒトの関わりから見えるストラクチャー(野林厚志さんをお迎えして)

 2016.12.22(B1事務局 三田)

12月21日は、「イノシシと人間の関係を野林さんにきく。そして考える。」と題し、国立民族学博物館の野林厚志さんをお迎えしてトークを開催しました。

 野林厚志さんのご専門は、人類学や民族考古学です。イノシシという動物を通じて、人間と動物との関係、狩猟や食生活といった人間の暮らし、動物観や自然観からまちづくりまで幅広い研究活動をされています。そんな野林さんの、イノシシ、ブタ、ヒトをめぐる話題は、イノシシとブタの関係のお話からはじまりました。

まず、イノシシとブタの違いについて。

両者は、見た目、発育速度、出産頭数等、様々な面で異なっています。けれど実は、イノシシとブタは生物学的には同じ(同族亜種)で、ブタはイノシシの「家畜亜種」なのだそうです。

ブタとイノシシの違い

 

ブタの誕生(イノシシの家畜化)は、多地域的に発生した可能性が高いけれど、中でも西アジア、中国という説が有力だそうです。そして、干支の十二支でイノシシを扱っているのは日本だけで、他の国でイノシシのあたる動物はブタなのだとか。

というのも、干支が入ってきたときには、日本にはまだブタがいなかった(まだ家畜化されていなかった)からなのだそうです。意外なところにもイノシシとブタとヒトの関わりが影響しているのだと、改めて気付かされました。

そしてお話は、野林さんが研究されている台湾での、イノシシとブタとヒトとの関わりのお話へと進みます。

台湾の原住民族パイワン族にはイノシシ狩猟の文化があり、今も伝承として受け継がれています。

けれど16世紀頃台湾に入ってきた漢族にはこの狩猟文化がなく、漢族にとって、狩猟は野蛮なものと考えられていました。国民党統治時代には、狩猟も禁止されていたそうです。

やがて1980年代の民主化運動の流れの中で原住民の権利運動も活発になり、今では、狩猟は法律で原住民族の権利として認められました。憲法の中にも「原住民」という文言が明記されていますが、これは世界的にも珍しいのだそうです。

そして中国ではブタを大変尊ぶ文化があって、それは台湾の儀礼の中にも現れています。

台湾の客家人には、義民節という、日本でいうお盆のような行事があります。この行事では、灯籠流しなどと共に、「神猪」としてブタの奉納も行われています。

ブタの奉納 義民節で祀られる義民とは、かつて客家を守るために戦って亡くなった戦没者のこと。そしてブタは、神様に捧げる動物です。ではなぜ、義民に神猪を祀っているのでしょうか?

客家の人たちは、自分たちのために戦ってくれた先祖を敬うために、ブタを奉納することで義民を道教の神様と同格にして祀ったのだそうです。

神猪とは 今回のトークでは、台湾における、動物の中のブタの地位や、人々の生活との関わり。また、漢族が台湾に入ってきた16世紀頃からの、漢族、原住民族、客家各民族の関係等。信仰や文化が凝縮された義民節を元に、順を追って丁寧に解説してくださいました。

「イノシシと豚、野生と野生ではないもの、先住民と漢族、動物と人間の関係などから、自然観や宇宙観がみえてくる」と野林さんは仰られます。そして、「人間と動物の構造、ストラクチャーが儀礼として成立している」とお話しを締めくくられました。

動物とともにある人間の営み。

イノシシとブタとヒトの関係の中から、人間と動物の関わり、文化や儀礼、社会や歴史など幅広い営みの構造=ストラクチャーに想いを馳せる、貴重な機会となりました。

「圧倒的物質で人と社会を揺さぶる/現代美術家・榎忠」(榎忠さんをお迎えして)

12月17日、鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」参加アーティストのお一人、現代美術家の榎忠さんをお迎えして、トークイベントを開催しました。

ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭
「圧倒的物質で人と社会を揺さぶる/現代美術家・榎忠」

榎忠さんは、「グループZERO」として、神戸の市街を都市劇場に見立て集団でハプニングを繰り広げたり、大阪万博のシンボルマークを体に焼き付けた 「裸のハプニング」や、「ハンガリー国へハンガリで行く」など独特のパフォーマンス活動を展開する他、 大砲や銃、原子爆弾、ゴミなど、身の回りに潜む危機や不穏因子に着目し、鉄の廃材や金属部品を用いた全長数十メートル、 総重量数十トンといった超スケールの作品でも知られる現代美術家です。
今回のトークでは、見るものを圧倒する力強い作品を生み出し続ける榎さんの創作活動について、また、その作品の背景に見えてくる人類の文明の歴史や、世界の様々な構造(ストラクチャー)などについて、お話いただきました。

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超満員で立ち見が出る中、トークが始まります。
榎さんは、20代の頃には絵画制作をされていましたが、絵だけではご自身の考えを表現しきれないと感じ、体を使ったパフォーマンスもされるようになりました。 写真に写っているスライドは1970年の「裸のハプニング」。これは、日光でご自身の腹部に大阪万博のシンボルマークである桜型を焼き付けて行われたパフォーマンスの写真です。
そして、"自分の生活は自分でまもる"という榎さんの信念を表した「LSDF(Life Self Defense Force)」、「ハンガリー国へハンガリ(半刈り)で行く」、榎さんの願望から生まれた"ローズねえさん"が営む幻のバー「Bar Rose Chu」、神戸ポートアイランド博覧会で発表された巨大な「スペースロブスター」等々、歴代の代表作の制作経緯をユーモアを交えてお話いただきました。

超スケールの作品の印象からか、「『大きな人』とイメージをされがち」と笑いながら語る榎さんは、神戸で旋盤工として勤めながらアーティスト活動をされてきました。
榎さんの作品は、どれも廃材にアクセスできる特殊な環境にいたからこそ生まれた問題意識が元になっているといえます。

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榎忠さんトーク.JPG

「いつまでも繰り返される戦争や紛争。開発する一方で、後の処理を考えない人間。
新聞やニュースで得られる情報はごく一部で、正しいのかも定かではない。だから想像し、表現する。
戦いが起こらないようにアートで戦っている」。 
そう語る榎さんは、作品を発表する場として、より社会や人々の日常に近い場所を選ばれます。「美術館など制約がある場所ではなく、好きな場所でやりたい」という言葉通り、毎回時間をかけて展示のための場所を探し、交渉し、困難な搬入や設営を経て、作品が生み出されていきます。そしてそのなかでは、様々な人との出会いも重ねられていきます。
そうして、いろいろな人々と関わり合いながら生み出される作品からは、そこに関わった人たちの存在を感じることができ、だからこそ、 対峙する鑑賞者を圧倒する力強さがあると感じました。

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トークの最後は、会場のみなさんからの質問にお答えいただきました。
作品にある種の宗教性・精神性みたいなものを感じるが、意図されているか。という質問に対して、榎さんご自身は「意識していないが、見る側の意識がそこにあるからそう感じるのではないか。」とのお答えでした。
また、あえて危険なもの、重いものなど、ヘビーなマイナスの印象がある素材・テーマを扱われることが多いことについて。という質問には「見る人が、見る人の問題として考えて欲しい。精神性などを考えて制作することは構わないが、あくまで語るのは作品」と表現者としての強い覚悟を語られました。
働きながら制作されてきた榎さんにとって、労働は食べるため、生きていくために必要な当たり前のことで、食べていくために芸術をしているのではありません。

今回のトークでは、常に社会に対する問題意識を持ち続け、表現し続ける作家としての榎忠さんの強さを伺うことができました。

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鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」では、榎さんの作品は《LSDF(Life Self Defense Force)》と《薬莢 Cartridge》を実物で、《スペースロブスター P81》と《GUILLOTINE1259〈ギロチンシャー〉》は展示当時の写真を拡大出力し展示、さらに1972年に行われたグループZEROとして行ったハプニングの映像、「ハンガリー国へハンガリで行く」などの過去作の記録映像を展示場入口で上映しています。

また、1月9日には展示している《LSDF(Life Self Defense Force)》を使っての「成人の日」祝砲パフォーマンスを開催します。

ぜひ、会場で榎忠さんの力強い作品に触れてください。

「芸術実行犯 Chim↑Pomの超戦」(卯城竜太さんをお迎えして)

 2016.12.17(B1事務局 サポートスタッフ大槻)

12月10日、鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」関連プログラムとして、アーティスト集団Chim↑Pom(チンポム)の卯城竜太さんをゲストにお迎えしたトークイベントを開催しました。

 ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭 
「芸術実行犯 Chim↑Pomの超戦」

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Chim↑Pomは、現代社会に全力で介入し、強い社会的メッセージを持つ作品を発表し続けている6人組のアーティスト集団です。アートを武器として社会の"見えない構造"に挑み、ときに超越しながら、世の中に物議をかもすアクションを次々と実行されています。そこで今回のトークでは「芸術実行犯Chim↑Pomの超戦」と題し、そんなChim↑Pom の活動における"ストラクチャーの冒険"について、今年の10月に東京の新宿歌舞伎町で開催した個展「"また明日も観てくれるかな?〜So see you again tomorrow, too?」に関するお話を中心にお聞きしました。

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今年で結成11年目であるChim↑Pomは、国内や海外で様々なプロジェクトを展開してこられていますが、デビュー当時からずっと東京を活動のベースとしており、東京の街中で数多くのアクションを起こされています。トークではそれらのうち、野良ネズミやカラスといった「都市における野生」への関心から生まれた《スーパー☆ラット》や《BLACK OF DEATH》、「大量生産・大量消費」への反発心を逆手にとって挑んだ渋谷パルコでの展示、「愛が目的のデモ」として新宿の路上で敢行したメンバーのエリィさんの結婚式《LOVE IS OVER》など、代表的な作品の数々をご紹介いただきました。一見すると悪ふざけのようにも見えるのですが、そこには必ず東京という都市を生き抜く若者としての鋭い感性と行動力に裏打ちされた強度があり、現代社会の在り方をあぶり出し問い直すアートの力をヒリヒリと備えているので爽快です。

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そんな東京の申し子とも言えるChim↑Pomが、"東京"について改めて考え直すことから始動した新たなプロジェクトの第一弾が、新宿歌舞伎町にある解体予定のビルを舞台とした展覧会「"また明日も観てくれるかな?〜So see you again tomorrow, too?」です。

歌舞伎町は、戦後なにもない焼け野原となったところから、一部の地主たちが様々な理想を掲げながら構想し、誕生した街です。今回会場とされたビルは、その地主たちから発足した「歌舞伎町振興組合」の拠点となってきた場所です。ビルが建てられた時期を遡ると、なんと前回の東京オリンピック開催年である1964年。そして現在、ビルは2020年のオリンピックにむけて、再び「建てこわし・建てなおし」されようとしています。
4年後のオリンピックを大義名分とした「スクラップアンドビルド」は、歌舞伎町のみならず、現在東京のあちこちではじまっています。日本は途上国から先進国へと発展し、状況も価値観もがらりと変わっているにもかかわらず、オリンピックに際し、かつてと全く同じような発想でまちづくりがされようとしていることへの違和感。今回の展覧会は、東京で日本人が繰り返すこういった「未来の描き方」を問い直すものとして企画されたそうです。

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トークでは、たくさんの写真をお見せいただきながら、ビルの4階から地下に至る各階の展示の様子をご紹介いただきました。ビルの持つ歴史や特性に深く迫り全力でインスパイアされながら、Chim↑Pomのこれまでを集大成して作り上げられた作品のお話はどれも面白くて、展示空間をその場で体験できなかったことが悔やまれました。そしてなんと、会期が終了した現在、ビルと一緒に展示作品も「全壊」させられています。なぜなら、作品をビルごと「スクラップ」し、その残骸を再び「ビルド」して展示することこそ、「スクラップアンドビルド」がテーマである今回のプロジェクトのフレーミングだからです。「まっさらなところで呆然としてから考えることが重要だ」と語る卯城さんからは、アーティストとして"ゼロ地点"に立ち続けようとする意欲と気概が伝わってきました。
会期中は展示だけでなく、全壊するこの場所を無形の"記憶"として残していくために、トークやライブといったイベントも数多く催したそうで、それらも大変濃度の高いものだったよう。「安全だけど安心でなくていい」という寛容さがある歌舞伎町は、街のど真ん中の会場でどんなに過激に騒いでも、自由に放ったらかしてくれたそうです。

 

トークの最後に、卯城さんが重要なこととして強調されたのは、今回の展覧会に関しては展示作りや運営、資金面など、全てにおいてChim↑Pomが自分たちの手で行ったという点です。それは、最近特に政治的な規制や検閲が顕著になり、美術館や芸術祭で出来ることが限られてきたことに理由があります。そういったしがらみに翻弄されるよりも、何か他の手を見つけて自分たちのやりたいことを実践していく挑戦として、インディペンデントで展覧会を開催することにこだわったそうです。その挑戦は、見えない社会のストラクチャーを超えていく試みであり、ストラクチャーを自らの目で見ようとする試みでもあるように思います。
すでに出来上がっている仕組みに身を任せていると、いろいろなことが見えないままに運び、いつの間にか大きな力に鈍感になってしまうことは、日常生活でも大なり小なり実感することです。Chim↑Pomや今回の鉄道芸術祭の出品作家の皆さんが、アートの力で見えないストラクチャーを冒険する姿に学びながら、私たちも常にそこへと意識を向け続けねばならないなと改めて危機感を持ちました。

鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」は、会期残すところひと月ほど。皆さんも是非、見えないストラクチャーに思いを馳せにいらしてください。お待ちしております。

「都市の成立を通してみる日本の構造」(北村亘さんをお迎えして)

 2016.12.9(B1事務局 小西)

12月8日、行政学者で地方自治を専門とする北村亘さんをお迎えし、地方自治とはどういうことか、鉄道と街の成り立ちの関係などをお話しいただきました。

ラボカフェスペシャル featuring 鉄道芸術祭
「都市の成立を通してみる日本の構造」

「都市の成立を通してみる日本の構造」

私鉄の力が強く、鉄道会社によって沿線の街がたくさん開発された関西。
大阪市は日中、市内で沢山の人が働いていますが、夜には北摂など他の市町村に帰宅される人が多く、昼間人口と夜間人口の差が大きい地域です。
また大企業は本社が東京にあることが殆どで、こちらも税収が減る要因となっています。

地方自治の予算は大きく分けて2つ。開発と再分配(福祉)があり、街の利益を増やすために福祉が手薄になり、開発が積極的になる傾向があります。
福祉を充実させるとその地の貧困率が高くなってしまうという、なんだかとても皮肉めいたことが起こってしまうそうです。

図を描いてその流れを解説していただきました。

「都市の成立を通してみる日本の構造」

Aの町の福祉を充実させると、、、近隣のBとCの町から移動しやすい不動産を持たないホームレスの人たちや低所得者の人々がまずAの町にやってくる。
福祉サービスの対象者が増えるので、サービスを拡大することになり、すぐに当初の予算を使いきってしまいます。
それでも町が頑張って政策を続けると、富裕層にとっては納税負担が増えるだけでなく町の治安も悪くなるため町を去り始めます。
お金があり、移動する力がある富裕層や企業が町を出て行ってしまい、空いた住居に流入してきた人々が不法占拠しだし、不動産の価値が下がる。
貧困層が増え、治安が悪化し、、、、という悪循環が続いてしまう。。。。
この現象は、1920年代まではNYのど真ん中で高級住宅地だった、ハーレムでかつて起こったことだそうです。

福祉政策の場合は貧困層はサービスを求めてやってくるので、支出一方。しかし、開発政策の場合は貧困層は雇用を求めてやってくるので、納税者になり、税収が増えます。
磁石に吸い寄せられる様に人が動くことから、ウェルフェア・マグネット効果という言葉で言われるそうです。

分かりやすく解説してくださり、改めて納得することばかり。
ですが、街の人々のための福祉政策が、街を悪化させる要因になることもあるというのは、なんともやり切れない気持ちになりました。

「都市の成立を通してみる日本の構造」

地方自治という言葉は響きが良く、「地方自治を高める」ことはとても良いことのように聞こえますが、
地方自治が強くなりすぎると、自分の利益のみに目を向け、再分配に背を向ける、どんどん保守的な考えに進むことにもつながります。

そして話は鉄道と密接に関わる大阪の街の成り立ちへ。
明治時代、国の計画により国鉄・山手線が敷かれ私鉄が国鉄に従属する形で広がって行った東京とは異なり、 大阪は私鉄各線が開発されて、その後に環状線が敷かれたので、国鉄との乗り入れが前提とされておらず、私鉄が幅を利かせています。
私鉄各社が沿線開発に力を入れたお陰で、北摂や宝塚、芦屋などのブランド力がある街が生まれ、大阪市中心地から離れた場所に住み、大阪市内には仕事に通うだけ、という人が増えました。
大阪市の夜間人口(住民)が減ってしまうことは、住民税収入が減ることにつながります。
大阪市が抱える少子高齢化や市民負担の増加などの問題は、鉄道網が加速させてしまったとも言えるのかも知れません。

「都市の成立を通してみる日本の構造」

最後の30分は参加者のみなさんとディスカッション形式に。
「将来の大阪に興味があってきた。大阪がよくなるにはどうしたらいいか?」との質問に、北村さんは 「大阪がうまくいかないと、日本がうまくいくわけない。東京だけに頼っていると、東京に何かあった場合、日本がどうにもならなくなってしまう。」と答えられました。

一緒くたに「地方創生」と言ってしまうのではなく、色々な見方をして、問題を分けて考えることの大切さ、 市民ができることと、行政じゃないとできないこと、その両方について考えることの重要さを考える機会になりました。

電車公演「クラブ電車〜ストラクチャーの冒険〜」を開催しました!

12月4日(日)に電車公演「クラブ電車〜ストラクチャーの冒険〜」を開催しました。
あいにくの雨にも関わらず、今年も満員御礼、たくさんの方にご乗車いただき、ありがとうございました。

走行する貸切電車の中で行う電車公演。
今回は駅から駅へと移動する、この日限りの「クラブ」を生み出しました。

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「クラブ」というと夜の地下スペースなどでのイベントのイメージがありますが、
電車公演「クラブ電車」は、日中に京阪沿線の車窓風景を楽しみながら、という駅から駅へと移動する「クラブ」となりました。
今回の公演は、ラッパーの環ROYさん、同じくラッパーで、環ROYさんとのユニット「KAKATO」としても活躍されている鎮座DOPENESSさん、そして島地保武×環ROYとして愛知県芸術劇場で舞台作品「ありか」を発表された、ダンサーの島地保武さん、PA/音響の岡直人さんによる特別編成の「環ROY×鎮座DOPENESS×島地保武×岡直人」
日常生活にある五感をテーマに、絵画、彫刻、映像、サウンドを自在にリミックスし作品を編み上げるマルチアーティストの和泉希洋志さん。
イラストレーターとして雑誌やweb、広告媒体、CDアルバムジャケット等音楽関係で活動され、2014年からファッションブランド「Né-net」とコラボレーションも展開されている鈴木裕之さん。
ゴミや廃材などの収拾物、印刷物や写真など既存のモチーフに描くドローイング作品やインスタレーション、グラフィティを用いた作品などを制作され、アーティストユニットcontact Gonzoとしても活動されているNAZEさん。
というバラエティ豊かな出演者を迎えました。
加えて、DJタイムの選曲者として、鉄道芸術祭vol.6「ストラクチャーの冒険」展の参加アーティストである五十嵐大介さん、インビジブル・デザインズ・ラボさん、榎忠さんにもご参加いただきました。


当日の様子を少し、ご紹介します。

受付を済まされた参加者の皆さんは特別切符を手に、中之島駅の3番のりばから「クラブ電車」にご乗車いただきます。
会場となる貸切電車は、大阪側車両からA・B・Cと名付けた3車両。ご家族連れでゆったりと座るも良し、混み合うアーティストの近くでパフォーマンスを楽しむも良し。3車両の中を参加者は自由に行き来していただきます。


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車掌さんからのアナウンスがあると扉が閉まり、いよいよ「クラブ電車」が走り出しました。
発車までの五十嵐さん選曲によるDJから一転、B車両で行われている和泉さんのライブ音がスピーカーを通して各車両内に響き渡り、車両内は一気に非日常的な雰囲気に変わります。

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3車両とも扉横のポスター掲示枠には広告ではなく、鈴木さんとNAZEさんの作品が掲示されており、吊り広告スペースには白紙が吊られています。

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いつもと少し、雰囲気の違う車両内。
画板を持った鈴木さんとNAZEさんたちは、鈴木さんがA→B→C車両(大阪側→京都側)へと、NAZEさんがC→B→A車両(京都側→大阪側)へと、ライブペイントをしながら進みます。
ペイントされた紙は、次々と吊り広告スペースに吊られていきます。

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鈴木さんとNé-netのコラボアイテムで全身コーディネイトされた鈴木さんファンの方々は、吊り広告をバックに記念撮影をされていました。

樟葉駅で停車すると、和泉さんのライブは終わり、インビジブル・デザインズ・ラボさんと榎さんの選曲リストによる、再びのDJタイムに。
樟葉駅周辺の緑豊かな景色を眺めつつ「汽車ぽっぽ」やHajime Tachibanaの「Bambi」などの曲がつながります。

電車は樟葉駅で折り返し、再び大阪方面へ走り出します。

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帰路の車中では、環ROY×鎮座DOPENESS×島地保武×岡直人によるパフォーマンスがスタート
環ROYさんと鎮座DOPENESSさんが乗客の間を行き来しながら、ラップを繰り広げ、それに呼応するように踊る島地保武さん。

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ラップ、ダンスと共に鈴木さん・NAZEさんによるライブペインティングも進み、車内を盛り上げていきます。

この日、この場限りの「クラブ電車」は京橋駅を通過し、地下へ潜り、終着のなにわ橋駅へ到着しました。
それぞれのパフォーマンスに目を奪われているうちにあっという間に終演を迎えた電車公演。
いつもの京阪電車の車内がアーティストの力で非日常空間に変えられ、とても印象的な小旅行でした。

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